将星と子どもと
サウザーの執務室が入っている建物のエントランスで用件を告げると、
やたらに豪華な部屋に通された。
どうやらそこが彼の執務室であるらしかったが、
シュウの執務室とは様子が随分と違う。
奇麗な女性がジュースを出してくれた。
シバは一人でサウザーの到着を待った。
に日ごろの感謝の気持ちを伝えてみよう、
と言い出したのはシバだった。
何を贈ろうかと日頃一緒に鍛錬している仲間と相談してみたのだが、
妙案は出ず、サウザーに相談するのが良いのではないか、
という話に落ち着いた。
シュウを通じて面会の予約を取り、
が居ない日に時間を作ってもらった。
鍛錬の様子を見に来てくれるときもそうだが、
サウザーは常に仏頂面をしている。
それでも誕生日にはプレゼントをしてくれたり、
気にかけてくれている気配はする。
シバは直接話が出来るのが少し楽しみだった。
暫く待っていると、サウザーが部屋に入ってきた。
シバは立ち上がって頭を下げる。
「構わん、座れ。
が居ないときにという話だったが、何の用だ?」
サウザーは気だるげな表情でシバの前に座った。
シバも慌てて座る。
「
さんにプレゼントを贈りたいんです。
でも何が良いのか全然分からなくて。
サウザー様なら何が良いのかご存知ないかなぁ、って」
「プレゼント、だと?」
サウザーの眉間の皺が深くなった。
睨まれているような気がして、少し恐ろしい。
「知っていたら先に贈っている」
「……そうだろうなとは僕達も思ってたんです」
「僕“達”?」
「はい。
いつも拳を教えてもらっている仲間です」
サウザーはシバを一度睨み、
眉間を押さえながら深いため息をついた。
「あの、日頃のお礼にって……」
「ああ……そうだな、そうだろう」
声にどこか覇気が無い。
どうしたのだろうか。
「何でも良いだろう。
品物を選り好みするような女ではない」
「母さんに聞いてもそう言うんです。
でも、折角だから喜んでもらいたいんです」
シバは膝の上できゅ、と拳を握った。
サウザーは目の前で拳を握るシバを眺めながら、
随分昔の自分を思い出していた。
そういえば、お師さんに何かプレゼントを用意しようとして、
かなり悩んだような記憶がある。
「
には何不自由ない生活をさせている。
必要なのは物ではないだろう。
お前達が自分で考えろ」
しゅん、とシバは目に見えて落ち込んだ。
彼に元気が無いと
が心配する。
それはそれで腹が立つ。
自分は誰にも相談できなかったことを思うと、
彼は十二分に恵まれている。
「……感謝の気持ちを伝えるのだろう。
そのまま伝えれば良いではないか。
俺よりも相談に適した人間が居るだろう」
シバは顔を上げた。
何か思いついたような顔をしている。
「ありがとうございます」
シバは礼儀正しく部屋を出て行った。
シュウといい、シバといい、
この親子はいちいちサウザーをイラつかせる。
「プレゼント?」
はシバを見下ろした。
「はい。
アイリさんに手伝ってもらって、皆で用意したんです!」
箱を手渡された。
アイリを見てみると、にこにこと笑って「開けてあげて」と言う。
リボンを解いて開けてみると、
中には綺麗にデコレートされたクッキーが入っていた。
不器用な字で「ありがとう!」と書いてある。
「アイシング、私も初めてだったからちょっと見栄えが……」
「ううん、そんなことないし、すごく嬉しい!」
はわしゃわしゃと囲んでくれている子どもたちの頭を撫でた。
「ありがとう」の言葉も添えて。
「アイリもありがとう!」
アイリの可愛らしい顔が綻んだ。
「アイリを連れ出してくれてありがとう」と、
隣に立っていたレイも微笑んだ。
「シバがサウザー様の所へ相談に行ってくれたんだぜぇ!」
子ども達の一人が叫んだ。
「相談になんか乗ってくれたのか?
サウザーが?」
レイが驚いた様子で言う。
少し酷いとも思うが、
も少し驚いたことは事実である。
「はい!
アイリさんにお願いした方がとか、一緒に考えてくれました」
ニコニコ笑うシバの笑顔がまぶしい。
確かに、
彼らが選ぶプレゼントを相談する相手はサウザーではないだろう。
丸投げした感も否めないが、
やっぱりサウザーは良い人である。
たぶん、彼は誤解している。
面倒事をアイリに丸投げしただけだと思う。
レイは口には出せなかったが、そう断定した。
「シバが直接会いに行ったのか?
一人で?」
未だに信じられないので、更に尋ねてみる。
「父さんに時間を作ってもらうようお願いしました。
七光りって言われちゃうと、その通りなんですけれど……」
シュウはシバの事が心配ではないのだろうか。
いやしかし、シュウに限ってそんなことは無いはずだ。
(そこまでサウザーを信頼しているのか……
やはりシュウは器が違う)
レイは一人で感心した。
シバが状況を先に説明しないから、殴り飛ばすところだった。
そんなことをしたら
に詰られるのは目に見えている。
危なかった。
が可愛がっている子どもの一人だから多少我慢したが、
これがただの野郎だった日には体を何分割かにしただろう。
殴るどころの話ではない。
どうせ
は何を貰っても喜ぶだろうから、
シバの悩みは杞憂に過ぎないのだ。
今日あたり
は上機嫌で帰ってくるだろう。
そうして嬉々として話してくれるだろう。
の機嫌が良いならば、それで良い。
(さっさと切り上げるか……)
サウザーはため息を一つついて、
書類を急ぐものとそうでない物に分ける作業に入った。
←
戻
→