将星と仁星と


「誕生日おめでとう、シバ!」

あちこちでクラッカーが鳴る。
輪の中心で、恥ずかしそうに微笑むシバ。
いつもどおり柔和な笑みを浮かべるシュウ。
可憐な顔を笑みで彩るアイリ。

そして殺気を撒き散らすサウザー。

そんなに嫌なら来なければ良いのに、
はこっそりため息をついた。

今日はシバの誕生日で、ホームパーティが開かれている。
普段一緒に鍛錬している子ども達も招かれ、
の足元に群がっている。
レイは少し遅れるということで、
会場であるシュウの家の庭にはまだ姿が無い。

全員分の食事を用意したのは、
シュウの細君である。
とアイリは二人で最後のケーキを用意した。

そのケーキが皆の口に入り、
無事終わることができますように。
は心の底から祈った。





シュウは思い思いの場所で食事を摂る子ども達を探りつつ、
料理を運ぶのを手伝っていた。
アイリもも楽しそうである。

その気配を感じ取れるだけで、
シュウは自然と顔がほころんだ。
を引き取ってらのサウザーの変わりようは説明しづらい。
二人とも、良い方向に変化した。

サウザーの力に屈したときは、
己の未来は辛いものになることを覚悟したが、
今のサウザーであればそのような覚悟は不要である。
そのように思う。

今も不穏な気配を撒き散らしてはいるが、
サウザーはおとなしくソファに座っている。
シュウと以外に近寄る人間は居ない。
それでも、この場に参加しているというのは、
驚くべき変化の一つである。

「これ、プレゼント!」

食事の皿がほとんど無くなり、
そろそろケーキを出そうかと考えていた頃、
子ども達がシバに包みを渡した。

「何?」

「開けて開けて!」

がさごそ、と包装紙を開く音がする。

「わあ、リストバンド!」

「みんなで選んだんだ!」

「気に入ってくれた?」

わいわい、とシバの回りに子ども達が集まってくる。
普段はおとなしいシバであるが、
今は分かりやすく喜んでいる。

「もちろん、ありがとう」

シバが履いているおろしたてのブーツは、
シュウが妻と相談してプレゼントしたものだ。

がアイリに声をかけて、
隠していた包みをシバにプレゼントした。
中身はフェイスタオルで、
シバは嬉しそうに礼を言っている。

そこで、サウザーから押し付けられた包みを思い出した。
終わってから渡せといわれていたが、
折角なので本人が居る間に渡した方が良いだろう。
シュウは一際大きな袋を抱えて、
シバに声をかけた。

「シバ、これはサウザーからだ」

そう口にすると、
サウザーは聞こえるように舌打ちした。
シュウは中身を知らない。
驚いた顔で受け取ったシバは、
恐る恐る、丁寧に袋を開けた。

「うわあ……!」

肩当、胸当、手甲、脛当。
子供用のサイズではあるが、
シバが身に着けるには少し大きい。
成長を見越して用意してくれたのだろうか?

「礼を言ってきなさい」

「はい!」

シバは嬉しそうにサウザーの方へ駆けていく。
その喜び方は今までの比ではなく、
誰のプレゼントが一番シバを喜ばせたのかは一目瞭然である。

いずれは拳士となってほしい。
しかし、それはまだ先のことであると思っていた。
一子相伝の鳳凰拳を伝承したサウザーにとっては、
シバの年齢は、
本格的に拳を学び始めるのに十分な年齢なのかもしれない。

「ありがとうございます!」

が教えるのだ。
 強くなってくれなければ、困る」

サウザーの言葉に、シバは「頑張ります」と応えた。
シュウは息子の成長に改めて驚かされるとともに、
自分が父親として不甲斐ないことに少々恥ずかしくなった。





プレゼントの礼を言いに来た律儀なシバと入れ替わりに、
がサウザーの元へやってきた。

「サウザーが一番シバの事分かってたね」

は少し悔しそうに、隣に座る。
プレゼントの中身については、
サウザーが他の物を思いつかなかっただけである。

物心ついたときから、お師さんと二人だった。
そして、鳳凰拳を学ぶために毎日修行していた。
それ以外の思い出は殆ど無い。
だから、あの年齢でほしがる物が他に思い浮かばなかった。

「ふん……」

プレゼントが喜ばれたことに対して、特に感慨は無い。
サウザーはしかめっ面のまま、アイスコーヒーを飲んだ。
このパーティーには酒が出ない。

「……は俺の誕生日を祝ってくれるか?」

何気なく聞いてみると、
は驚いたような顔をした。

「勿論。
 ああ、でも、プレゼントは期待しないでね?
 あんまり凄いのは用意できないと思うよ?」

食べ物系は不可能だし、
は一人ぶつぶつとつぶやいている。
食事に関しては不自由していない。
生活に必要なものも、今のところ困ることは無い。

が傍に居てくれるだけで良い。

サウザーはの肩を抱き寄せて、頬に口付けた。

「ひ、人前で!」

顔を赤くして、が「何するのよ」と小声で怒る。
別に恥ずかしいことなど何もない。
舌を絡めるような口付けではなかったのだから。

「楽しみにしている」

「最善を尽くします」

またが悩み始めたので、
サウザーは何の気なしに辺りを眺めていた。
シュウが微笑みながら、こちらの様子を伺っている。
それが少し腹立たしいが、
が隣に居るので何も言わないことにする。

大きなケーキが運ばれてきた。
どうやら、とアイリが二人で作ったらしい。
が作った物であれば、
甘ったるいケーキでも少し食べてみようという気になる。

切り分けるアイリと、
皿を配りはじめたシュウの周りに子どもが群がっている。
あれが引けたら一皿貰おう。
サウザーはそう考えて、
真剣に悩んでいるを横目に口の端を持ち上げた。