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シュウやレイ、シンの軍勢は失ったが、
それでも十分な私兵は居た。
俺は自分を聖帝と称して、覇を唱えた。
俺が、
鳳凰拳が、
お師さんが、
最強であることを証明しなければならなかった。
北斗に劣るなど、言わせはしない。
シュウの離脱の日以来、
はぼんやりとしている。
任せた仕事にミスは無かったが、
心ここにあらずという状態だった。
そうなるのを、望んでいたわけではない。
何が悪かったのだろうか。
思い当たる節がありすぎる。
もしそれらを避けていたら……と考えて、
無駄なことだと諦めた。
そんな
を戦場に引っ張り出すのは危険だと思ったので、
城に残して領土を広げるべくあちこちを転戦した。
道場破りなど、もう心配する必要は無かった。
ある程度の領土を得てからは、
自分で出て行く必要もほぼ無くなった。
その間に、俺はお師さんの墓を建設することにした。
金も、権力も、今は手中にある。
一介の拳士ではないのだ。
これでお師さんに相応しい葬儀ができる。
そして、俺はそこに俺の情愛も捨てることにした。
お師さんが死んで悲しかったのは、
俺がお師さんを父と慕っていたからだ。
に手を出す輩が腹立たしいのは、
俺が
を愛しているからだ。
だから、苦しい。
苦しいのは、執着するせいなのだ。
そうと決めると、少し穏やかな気分になった。
気がかりなのは、反聖帝ゲリラである。
報告には、敵方に南斗聖拳の人間の名前がちらほらあがってくる。
どれもシュウの手下である。
はこれに参加するつもりだったのだろうか。
それほどまでに拒絶されているのかと思うと笑えてきた。
絶対に潰してやろう、と決めた。
そんな中で、ラオウと利害が対立した。
戦争になることは明白だった。
俺は己の体に北斗神拳がきかぬことを知っている。
だからラオウなど恐れるに足らず、と言いたいところだったが、
奴の剛拳はそれ単体で威力があるから馬鹿にできない。
手合わせをしたのは遠い昔のことであるが、
それからさらに成長したラオウと戦うのは面倒である。
ユダの策略で一時は押したものの、
結局力比べでは拮抗し、
共倒れになることを防ぐためだけに講和を結ぶことになった。
その結果「聖帝」の名前は一旦封印されることとなったが、
名前などどうでも良い。
城に戻り、ソファに座る。
は居るが、他に誰も居ないので腹立ち紛れに脱いだ鎧を投げた。
糞っ!
糞っ!
糞っ!
ラオウが統一を果たし、
その成果を横合いから奪うというのは魅力的なプランである。
しかし、勝てないというのは腹が立つ。
負けはしなかったが、勝ちもしなかった。
テーブルに脚を投げ出して、
ぼう、としていると
が傷口を消毒してくれていた。
いつ以来のことなのか、はっきりと思い出せない。
あれほど明確な拒絶をしても、
役目を果たすという所はきっちりしている。
お師さんとの約束は、それほど
を縛っているのだろうか。
それももう終わりである。
俺は十字陵の話をした。
は驚いたようだった。
信じなかったようだが、
の意思は関係ない。
愛しているのに、触れられもせんのに近くに居るから、苦しい。
もう自由にしてやるのだ。
もしその後で、
がシュウの許へ走ったとしても、
その反聖帝軍を俺が叩き潰すことになったとしても、
もろとも全て潰してやることになる。
何せ、俺の情愛を捨てるための墓は完成した後の話なのだから。
それから、俺は天帝の村を襲撃し、
海を渡った先にある国に軽く挨拶に出向いてみたりした。
は城に置いたままである。
逃げ出すかと思ったが、そんなことは無かった。
辛気臭い顔であったとしても、
城に
が居ると知ると安堵した。
ラオウと講和を結び、
それ以外の面倒も片付いた今、
一番小うるさいのはゲリラだった。
どこまでも、シュウは俺の神経を逆撫でる。
情報戦をしかけ、ゲリラのアジトの場所をおおよそ全て把握したころ、
ラオウがケンシロウに敗北したという一報が届いた。
結果、拳王軍は瓦解したとのことである。
その情報を入手して、すぐに俺は拳王軍の領土に侵攻した。
領土はすぐさま拡大した。
墓の建設は進んでいる。
完成は目前である。
を手放すまで、あと少し。
そんな感傷に浸る間もなく、
ケンシロウがシュウと接触したという情報が入った。
良いことを思いついた。
二人には十字陵の素材となってもらおう。
そう決めた。
「ケンシロウが領土内に現れたらしい」
に話しかけると、
「そうですか」と興味なさげな返事が返ってきた。
「これから、捕らえにいく。
北斗を越えた証拠として、丁度良い」
笑ってやると、
の顔がみるみる険しくなった。
「また酷い目にあわせるのですか」
「酷い目?
あれも伝承者になった。
死合だ」
責めるような視線に耐えかねて、
俺はその場を後にした。
街で見つけたケンシロウは、
俺の体の秘密には気づかないようだった。
ラオウといい、阿呆な兄弟である。
捕らえて、牢につないだ。
胸がすく思いだった。
ラオウには勝てなかったが、伝承者には勝った。
リュウケンも阿呆だったということだろう。
は墓を建設させている子どもの環境を少しでも良くしようと、
何かしら細工をしているようだった。
放っておいた。
別に、邪魔をされているわけではない。
どうやって埋めてやろうかと思案しているうちに、
ケンシロウが逃げた。
逃がしたのは、子ども。
それこそ昔のケンシロウのような、
腕の立つ子どもが紛れていたとは思えないが、
情報を総合するとそういうことになった。
しかし、深手を負ったケンシロウが遠くまで逃げることなど不可能である。
これを機にシュウの軍を一掃してやることにした。
には秘密だ。
アジトを潰す前に、関係すると調べがついていた女子どもを捕縛する。
それをつれて、アジトに攻撃をしかける。
燻り出されたドブネズミ、シュウは人質を見て絶句した。
仁星は、思いやりの星。
シュウは人質を見捨てることが出来なかった。
ケンシロウは逃がしたらしいが、
そちらはまたいずれ会うことになるだろう。
どうせ遠くには逃げられない。
俺はシュウを捕らえて、意気揚々と城へ引き揚げた。
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