Cassandra
本当に
は去った。
主の去った部屋はいやに殺風景で、
私物が殆ど無かったせいで
の痕跡はごく僅かだ。
まるで最初からそんな女は居なかった、
と言われているような気がしたが、
そうではないと手の中にある勲章が主張している。
から渡された手紙には、
すでに聞いた情報からまだ聞いていない情報まで、
時系列に起きる事件が並んでいた。
そして最後に一言。
『細かいことが分からなくてごめんなさい。
』
、と書くのだと初めて知った。
あまりそういうイメージが無い。
は
だ。
サウザーは聖帝を名乗ることにした。
ラオウが拳王なのだ、その上を行かねばならないのだから。
シュウは反聖帝を掲げて反乱軍を組織している。
もその中に居るかもしれないが、おそらく戦闘員ではない。
非戦闘員の捕虜を取ればその中に居るだろう。
に渡された勲章を握る。
褒美は何が良いだろうか?
考えてみても、何が好きなのかすらよく分からないのだった。
はシュウ達とともに地下に隠れ住んでいた。
アルマも勿論居る。
彼が事務方のトップにあたるらしい。
皆女神たる
に理想を押し付けていたわけではなく、
落胆されるようなことが無くて安堵した。
シバはそれでも憧れの眼差しで見てくれる。
こんな小さな子を死なせる訳にはいかない。
とにかく、ケンシロウが来るまで粘らねばならない。
とはいえ、戦略や策などといった類の知恵は
には無い。
雑用をするくらいしか手伝えることは無い。
特別なことといえば、皆を鼓舞するくらいだろうか。
「シュウ様が居れば負けませんよ」
間違いではない。
シュウはサウザーに捕えられるまで、
ケンシロウに敗北した以外に負けたような描写は無い。
とにかく彼は死なない、ということが重要だ。
シュウに従ってレジスタンスに身を投じた人たちば、
反聖帝という理念に賛同する以前に、
シュウという男の人柄にほれ込んでいるらしい人間も多く見かけた。
彼らが知恵を絞り、なんとか運営している。
それがレジスタンスの実態である。
人狩りが行われた地域からの参加者も多い。
ようやく青年と呼べそうな年齢の少年が、
「弟を助けるんだ」とボウガンを握る姿は痛ましい。
ジリ貧なのは目に見えている。
物量において優勢なサウザーがその気になれば一ひねりである。
南斗の拳士以外の私兵軍が組織されたと聞いて、
やはりサウザーはサウザーなのだと思い知らされた。
きっと『汚物は消毒だ~!』の人も居ることだろう。
シュウにはこう言っている。
「ケンシロウがサウザーを倒しますから」
と。
疑わしいと思っているらしく、
出くわしたときには拳の腕を試すつもりだということだった。
それで良い。
拳王敗走の報せが届いた後はケンシロウの捜索に注力してほしい、
とお願いしている。
(それまでは耐えるしかない)
は自分に言い聞かせている。
シュウは主に子ども狩りを阻止するために、
あちこちでゲリラ戦を展開しているらしい。
少ない物資をやりくりして、
助けを求める難民の受け入れに忙殺されていると知っていたが、
はアルマにいくつかの物を用意してもらうようお願いした。
シュウは
の予言を信じるといったものの、
やはり完全に信じることは出来ないで居た。
(あのラオウが負けることがあるだろうか……)
若い頃から非凡すぎる才能を発揮していた男である。
全てをねじ伏せるような剛拳の男を、
あの幼かったケンシロウがどうやって倒すのだろうか?
俄かに信じがたい。
レイには一度だけ再会した。
街を一つ賭けた戦いの最中だということだったが、
あまり力になれなかった。
サウザー率いる聖帝軍はラオウの拳王軍と交戦、
引き分けた末に帰順することになった。
サウザーが誰かの下につくとは思えなかったが、
何か策があるのだろう。
妖星のユダがシュウが去ったあと戻ってきたらしい。
彼も何を考えているのか分からないが、
サウザーに何かしら助言したのかもしれない。
拳王は負けなかった。
勝ち続けた。
天狼リュウガを部下に迎え、
伝承候補を争っていたトキも捕まり、
覇権を確立するのはもはや時間の問題かと思われた。
「
さん。
やはり拳王が負けることなどありえぬ」
「必ず負けます」
は断言した。
もう少しだけ待ってください、と。
レジスタンスは疲弊しつつある。
がいくら鼓舞しようとも、サウザーの兵力は無尽蔵に思える。
その
であるが、簡単な雑務を手伝ってくれている。
死者を見ては傷つき涙を流し、
悼む姿は皆の心に人間らしい情を取り戻させてくれた。
命の灯火が簡単に消える今という時代がおかしいのだ、と。
そして。
の予言どおり、シンが敗死したらしいという情報が入った。
ケンシロウとの戦いに敗れたとのことである。
南斗六星の一角を失ったことは辛かったが、
予言が当たった、と皆の顔に少しだけ生気が戻った。
そして、本当にラオウは敗走した。
ケンシロウが倒したのだという。
続いて、レイとユダが死んだ。
一人の女性と街を守ってレイは死んだのだそうだ。
探していた妹のアイリはその街で暮らしているという話である。
失った視力も、ケンシロウの手で回復の兆しを見せているとも。
ケンシロウの評判が高まるにつれて、
それを予言していた
の評判も上がってくる。
「“女神”がついてるんだから」と士気も少し上がった。
ごく普通の女性にしか思えないのに頑張ってくれている。
頭が上がらない。
「シュウさん、お話があります」
その
がいつになく暗い声で話しかけてきた。
シュウはその声からなんとなく話題を悟り、
二人きりにしてもらうようお願いした。
「すみません、気を使ってもらって」
「問題ない。
また新しい予言を聞かせてくれるのだろう?
あまり人に伝えたくないような」
「はい」
「私の死に関することかな?」
そう言うと、
はやや間を置いて「はい」と答えた。
「そう固くならなくて良い。
あのサウザーに向かって『ケンシロウに殺される』と、
声高に主張してきたくらいの勢いがあって良いと思う」
「……あれは怖いもの知らずすぎました」
気まずそうに言う。
それが少しおかしい。
「死を覚悟していない拳士は居ない。
だが、
さんが言うということは聞く必要があるのだろう。
……レイとアイリの話もしかり。
だから教えて欲しい。
私は、どうやって死ぬのだろうか?」
沈黙が流れる。
シュウは努めて穏やかな笑みを浮かべて
の方を向いた。
←
戻
→