Cassandra
翌日には
の部屋に仕立て屋が数人送り込まれてきた。
各所のサイズを図り、苦笑されてしまったが、
こればっかりはもうどうしようもない。
「どんなデザインなんでしょうか」
と、
が尋ねてみると、
彼女らは若干気まずそうに付箋が付いたデザイン画を見せてくれた。
それらはギリシャ神話風で、
胸元がこれでもかと露わになっているものが多く、
もちろん中に納まる物のボリュームが肝心であって、
日本人らしい体型の
には似合いそうもない。
「……これは自分でも無理だと分かります」
「そうですね、こういうデザインであれば……!」
別のページを開いて見せてくれた。
胸元が隠れても今度は脚が丸見えで、
やはり長さが全く足りない気がする。
最終的に、非常に無難なデザインに落ち着いた。
更にショールのようなものをかけることによって、
体型をよく分からなくさせる方針まで固まったようだった。
いらぬ気を使わせて申し訳ない。
ギリシャ神話ならアテナを目指してくれれば良かったのだ。
甲冑なら体型なんか関係ないと思われたが、
戦うことは出来ないのでやっぱり今の案に落ち着いたことだろう。
シュウ虐めが加速しているせいかサウザーの機嫌は良い。
領土の視察につれていってやろうか、と言われたが、
漫画初登場時に乗っていたあの目立つ移動式玉座(?)に乗せられて、
晒し者にされたくは無い。
は丁重に辞退した。
布の分量は多くても縫う部分が少ないのかお針子さんが頑張ったのか、
の人前に出るための衣装はすぐに完成した。
サークレットやブレスレットなどの装飾品の類も、
同時に数種類用意された。
イメージ戦略は女神だそうだが、
サウザー本人が言ったように
自体には女神らしさはあまり無い。
荷が重過ぎる。
そのサウザーは出来た衣装を着ろと命じておいて、
「馬子にも衣装だな!」
と、あざ笑っていた。
酷い。
しかし、
の方でもスルースキルが上達している。
無言で流すことにした。
「シュウさんはまだ戻られないんですか?」
もう随分顔を見ていない。
が尋ねると、
サウザーは「まだ暫くだろうな」と眉間に皺を寄せた。
「時間がかかるようなら殺せといっておいたが、
何を手間取っておるのやら」
やはり、彼の中では『カスよりマシ』な存在でしかないのだろう。
少し悲しい気分になる。
妙に粘着質なしゃべり方をするようになったサウザーであるが、
ここ何回かは未来の話を教えろとせっついてこなくなった。
まあ、分かっていることには限りがあるし、
言いたくない部分は知らないと突っぱねているので、
命じられても話すネタが無いというのが現状である。
それでもしゃべる時間を設けてくれるのは、
が賓客であるからなのか、
今後“女神”として利用するためなのか、
どちらかに決まっている。
しかし、彼の女神は一人と定まっている。
あの美女の名前はサナさんというらしい。
サウザーが以前侵略した先で見つけたらしいが、
今はサウザーの一番のお気に入りであるらしい。
彼女ならばやりすぎた胸元の露出にも耐えられただろう。
やはり彼女が“女神”として立つべきなのだ。
何せ、人目に耐えうる見た目がある。
は絶望的に色気が足りなかったが、
それでも清楚とか、
そういう言葉に足る程度に誤魔化せることが分かった。
最初から色気は求めていないのでそれで良い。
予言を信じたくなりそうな、そういう雰囲気であれば。
それっぽい装飾品を用意させたが、
はそれらもあまり好まないようだ。
実際人前に出るときには無理にでも装備させると言い渡してある。
その
はこの期に及んで、
「あの美人な方にお願いしましょうよ……」
と提案してくる。
下手をするとサナに兵士を持っていかれかねない。
そういう危険を
に一から十まで説明してやろうかと思ったが、
そんな格好で人前に出たくないという魂胆が見え透いているので、
放置している。
そのサナに対して、サウザーは面倒を感じ始めている。
良い女なのだ。
美しいし、抱けば良い声で鳴く。
しかし、何を勘違いしているのか
のことを気にしている。
「サウザー様は
様が随分とお気に入りですのね」
と、拗ねていたりもした。
機嫌を取ってやりはしたが、いい加減理解しろとも思う。
自然と足が遠のいている。
遠のけば遠のくほどサナがサウザーを詰る。
“女神”衣装をそろえたときは面倒だった。
「
様にばかり」と泣いてみせるので、
適当なものを贈ったように記憶している。
彼女の心の内には寵愛を独り占めして贅沢をしたい、という執念が見える。
その点、
はそういう欲が見えない。
楽をしたいだとか、儲けたいだとか、
殆どの人間にあるべき欲があまり見られない。
『生き残ってもらわないと困るので』
と言ってへらへら笑っている。
それだけは折れない。
一貫してそう言い続けられると、
サウザーの方でも慣れて、気分を損ねるほどでもなくなった。
アルマがシュウの代わりに顔を出してくれた後、
普通であれば急な用が入ることは無いが、
珍しく
の部屋に来客があった。
「あの、お通ししますか?」
と、兵士が困ったようにお伺いを立ててくれている。
「サウザー様はそれで良いと?」
「ええ、まあ……」
煮えきらぬ反応である。
サウザーが許可したのならば面倒なことは何もない。
いつも一人で暇を潰すのに苦労しているところなのだ。
「でしたら、お通ししてください」
がそう言うと、兵士は何か言いたげな顔で戻っていった。
別にサウザーのように歯向かう人間は殺す、
という主義では生きていないので、
言いたいことがあれば言ってもらいたいのだが。
その兵士と入れ替わりに入ってきたのは、
“女神”に一番近い女、サナであった。
同性の
から見てもその容姿の美しさは際立っており、
無闇に有り難い気持ちになってしまう。
うっかりすると拝みたくなる。
「どうぞどうぞ。
粗茶ですが」
「ありがとう」
にっこりと笑ってサナがソファにかける。
はその前にお茶を出した。
粗茶な訳が無い美味しいお茶ではあるが、
それ以外の遜り方を
は知らない。
「今日は
さんに相談に参りましたの」
サナのぷっくりと形良く膨らんだ唇が動く。
「はあ、何でしょう?」
「私が貴方の代わりに予言を伝えることが出来ないか、と」
願ったり叶ったりだ!
そう、
は思ったのだった。
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