Cassandra
重荷にしか感じられなかったサウザーとの会談であったが、
よく考えてみると
が伝える未来を誰よりも聞いてくれるのは、
そのサウザーなのだった。
それ以外の誰も信じてくれる気配が無い。
誰にも信じてもらえない状況に思いのほか傷ついていたらしく、
サウザーが一々状況確認のために手を回してくれたり、
尊大な態度ながら耳を貸してくれるのは嬉かった。
シュウは
のことを随分気にかけてくれているようだ。
アルマも自分が逃がせなかったばかりに、
と責任を感じてくれている様子である。
二人とも人が良い。
見張りの兵士達はシュウの直接の部下ではないらしいが、
白鷺拳伝承者ともなると敬意を持って接しているようだ。
リゾの例といい、
サウザーの部下全員がシュウの死を望んでいたとは思えない。
「シュウさんには長生きして欲しいですよね」
と会話の流れで言ってみると、
「ええ、本当に。
シュウ様は我々のような下々の人間にもお優しいですし、
苛烈なサウザー様に反論してくださるお方ですから」
と、返って来た。
やりすぎるサウザーを止めてくれる貴重な人、
という認識の人間も居るようだった。
シュウ本人にもシンの末路のことを再度詳しく伝えてみたが、
「シンも分別のある大人だから心配ない」と言われた。
調べたり、手を回してくれそうな気配は無い。
彼のこの性善説を採る甘い認識のせいで、
サウザーの暴走を止めることが出来なかったのではないかと思った。
「シンさんに直接お会いできませんか?」
と
はシュウに尋ねたが、
サウザーの客人という扱いであるため、
シュウには許可することが出来ないらしかった。
「すまない……勝手に連れ出せば、
より辛い目に遭わせてしまうことになりかねん」
ご尤もである。
それに、シュウに類が及ぶのも申し訳なかった。
他の六聖拳への面会はサウザーにお願いするしかないらしかった。
しかし直接会ったところで、
人の良いシュウですらこの調子である。
まともに取り合ってくれるとは思えない。
シュウの話によると、
南斗の里以外の人心と治安の荒廃は目に余るものらしい。
一部の人間は略奪を生業とし始めているそうで、
核戦争で激減した人類は、
更に少ない資源を争って生存競争を激化させているという。
南斗の里はサウザーの強い統制でそのような略奪は横行していない。
道場破りにやってきた人間に対しても容赦せず、
私刑の末死亡させてしまった事例も多いそうだ。
しかし、それを取り締まる国家は既に無く、
里自体が一種の自治組織として機能し始めているという。
つまり、漫画の通りに世界は混沌としているらしい。
「ケンシロウが伝承者となったようだ。
さんが言った通りで驚いた」
と、シュウはニコニコと笑って言った。
随分昔に会ったことがあるのだ、と。
知っている。
彼がその両目の光を投げ捨てたのは、ケンシロウのためだったことくらい。
悪い人ではないことに間違い無いのだが、
そんなのんびりした物言いに
は軽く苛立ちを感じた。
彼がどのような最期を迎えるのかという会話は出来そうにない。
は予想外に“当たり”なのかもしれない。
サウザーは少しだけそう感じている。
サウザーに情報を売ろうとする人間はそれなりに居り、
高値でカスのような情報を掴ませようとする輩も少なくない。
その点、
は費用対効果が今のところ良い。
客人のもてなし程度でなかなか入手し辛い情報を当てて見せた。
この調子で当て続けるならば色々重宝する。
(果たしていつまで続くだろうか)
そんな風に思っている。
がどのような経路で侵入したのか調べさせているが、
どうにも捗々しい成果は得られていない。
検証のためと彼女の体力を測定してみたが、
鍛えている気配はまるでなかった。
手を抜いている訳ではないらしい。
どうやって誰にも見られずにあの噴水までたどりついたのか、
という疑念はまだ解明されていないので、
全面的に信じる訳にはいかない。
暫くして、リュウケン死亡の報告が届いた。
ラオウは北斗の道場を出て行ったらしい。
シンも南斗六聖拳としての役割を意図的に放棄しているらしく、
離脱するのも時間の問題であろう。
女の尻を追いかけて命令を守らぬような輩など、
しかもその挙句敗れて死ぬと言われる男など、
居ても居なくても良いので放置している。
『ユリアさんを諦めるようお伝えください』
は少し悲しそうな顔をして、そう言った。
何を悲しむことがあるのだろうか。
関係の無い男が一人死ぬだけだというのに。
知り合いなのだろうか?
そこで、
彼女は自分を生かすために来たと主張していたことを思い出した。
しかも、ケンシロウに殺されるという。
性質なのだろう。
そう思うことにした。
その数日後のことである。
「あの女がレイに面会を求めているだと?」
サウザーはふざけたことを報告する部下を睨みつけた。
「知り合いなのか?」
「いえ、そういう訳ではないようです。
シュウ様は気分転換をかねて部屋を出してやってくれ、と。
仮にも客人だろうと仰られて」
「あとで疑わしき会話はすべて報告させるので良ければ許可する、
とでも伝えておけ。
場所はそうだな、逃げられぬような部屋を選定しておけ。
つける者の人選は任せる」
「サウザー様はあの女の言葉を信じておられるのですか?」
部下の問いにサウザーは笑う。
「信じる訳が無かろう。
妄言の類だが、一部的中もさせている。
あの女のおかげかシュウも大人しいし、
その程度のご機嫌くらいとっておけ」
そんな返答に、部下は「分かりました」と深々と頭を下げた。
そろそろ自分も動き始めねばならないだろう。
南斗の軍、と称しておけばシュウやレイあたりは手元に残る。
シンとユダは離脱するのを止めるのは面倒である。
のおかげで早めにその兆候を探知できたので、
被害を最小限に食い止める手筈を整えている。
最後の将とやらは……おそらく出ないだろう。
何せ、今まで何も直接関わってこようとはしなかったからである。
意識的なのかどうか判別できないが、
は情報を小出しにしている。
皆どのような末路をたどるのか気になるところだ。
今度は他の誰かの未来を聞いてみることにしようと決めたのだった。
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