chained
はリュウガの副官の任を解いてもらうことにした。
軍の再編を進めるソウガに申し出て、受理された。
元々リュウガの監視と騎馬隊の調練のための配置である。
両方が軌道に乗った今、
がそこに居る必要は無い。
人事異動の結果をリュウガに報告すると、
一瞬労わるような視線を貰ってしまった。
「次はどこへ行く?」
「騎馬部隊の補充要員の育成に。
リュウガ様の副将として戦うには力不足を感じまして」
がそう言うと、
リュウガは「そんなことはない」とはっきりと言った。
お世辞でも嬉しいものである。
「随分助けてもらっている。
正直、抜けられると困る」
「ご冗談を。
リュウガ様が前線に出てくださるならば、
私は安心して兵士を託すことができますし」
リュウガは困ったような笑みを浮かべた。
「
が望むならば、これ以上は口を挟むまい。
時間があれば良い人材を教えてもらいたい」
「勿論です。
拳王様の次に、ですけれど」
そんな会話をしてリュウガの部隊を去った。
兵士達にも異動の挨拶を簡単にすると、
小物をどっさりと預かることになってしまった。
埋葬は自分とリュウガだけが知っていると思ったが、
そうでもなかったらしかった。
「私も
様に馬術を習った者の一人として!」
と言ってくれたことは心底嬉しかった。
「お前嫁さんいるだろうが!」とドヤされている者もいたが。
自分にこれを埋葬させるようなことはしてくれるなと、
強く言っておいた。
これでやっとリュウガから離れられる。
が育て上げ、そしてそのままリュウガが引き受けた部隊は、
精強な騎馬隊として拳王軍の中でも重要なポジションにある。
が不在となった今でも、である。
補充されてくる兵士は練習の時間をたっぷり取れたのか、
どの兵も騎馬隊の兵士としてすぐに馴染める程度に馬を操った。
にしごかれたのだろうと言うと、
青やら白やら顔色を変えるのが面白かった。
面白かったが、喪失感を感じた。
軍を動かす主要な指示はリュウガが出していたが、
その指示を伝えていたのは
である。
それ以外の仕事も補佐し、雑談をする。
拳王軍に来て以来、一番傍に居た人がいなくなった。
覇者の夢を手放して、得たはずの仲間とは何だったのか。
かといって、
に戻ってくれとは言えない。
彼女が苦しんでいたのは知っていたし、
その悲しみを思うと酷いことは言えない。
彼女のしていた仕事を代わりに出来る人間はいくらもいたし、
兵士の質を考えても、もう彼女の調練を必要とするほども弱くは無い。
リュウガは以前よりも自分のための時間が増えた。
それなのに、物足りない。
本拠地に戻ったときに
の調練を見に行った。
彼女の鬼教官には磨きがかかり、兵士達は必死な様子だった。
失礼な話ではあるが、それがまたどこと無く滑稽である。
そんな集団から離れて挨拶に来てくれた彼女に、
「調子はどうだ?」
とリュウガは尋ねてみた。
「負傷して戻った者が手伝ってくれるので、
楽できていて本当にこれで良いのかと不安になります」
そう苦笑しながら言う。
ぐるぐると回り続ける新兵を叱咤している兵士を見てみると、
そういえば少し前に負傷して後方に下げた人物だと気が付いた。
「……あいつも随分元気そうだな?」
「……彼の名誉のために申し上げますが、
毎日来てる訳ではないので許してあげてください」
割と真剣な口調で言われた。
冗談だったのだが。
それから調練の様子と近況を話した。
まじないか何かだと思っているのか、
兵士達は
に小物を一々預けてくれるそうだ。
部屋にはそれを仕舞う箱が増えてきて始末に困るという。
「でも、集まるということは埋めていないという訳で、
良いことなんですけどね」
そういって微笑む彼女を見て、
リュウガは切ない気持ちになった。
やはり、
は浮いている。
人を殺す術を教え、戦場で人を殺してきた人物であるが、
彼女と居ると心が和む。
暴力と制圧のことばかり考える輩とはちがい、
その先を生きていくことを考えているからだろうか。
リュウガにはとてもまぶしい存在に見える。
そこだけが平和だった頃のような。
心が休まる場所である。
その
が更に軍事から身を引く、という噂を耳にした。
リュウガの部隊では最古参の、
を妹か娘か、と言っていた者達がまた集まっていた。
普段からそう馴れ合う集団ではなく、
リュウガはからかい半分に声をかけた。
「どうかしたのか?」
「え、いや、その……」
歯切れが悪い。
そうなると更に掘り下げたくなるのが人の性というものだろう。
「何かあったのか」
「……我等が
女史のことでしてね」
一人が苦笑紛れに口を割り、
が拳王軍を離脱するのではないかとの噂を聞いたのだった。
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