sanctuary
が城を出て数日。
ラオウは苛々しながら報告を聞いていた。
リュウガは別に、何も失敗していない。
むしろよくやってくれている。
軍を動かす人間ならではの感覚があるためか、
よりも柔軟な対応をする。
だが、何かが違う。
が言うように、
またラオウが認めるとおり、
リュウガは信頼に足る人物であるし、
能力もある。
何も、問題は無い。
から引越しが完了した旨の連絡が来たので、
黒王号に乗って城を出た。
そのラオウの姿を見て、
人々は家に隠れてみたり、
ひれ伏してみたりする。
拳王の名は、すでに十分轟いている。
街の片隅にある、小さな家に
は引っ越した。
庭もあり、人一人が生活するには十分な広さである。
ラオウは黒王号の鞍を外してやり、
暫く自由にさせてやることにした。
ラオウ以外の誰も黒王に乗ることはできないので、
何の心配も無い。
ドアをノックすると、
中から「へーい」という間の抜けた返事が返ってきた。
暫くして、
明らかに今目覚めた、という様子の
が出てきた。
「あ、ラオウ、いらっしゃい」
「……ひどい顔だな」
「こんな朝っぱらから来るのが悪いんじゃないですか」
「もう昼過ぎだ」
「あれ?」
「お前は女だろう」
あはは、と
はごまかすように笑って扉を閉めた。
そして、ドアの向こうで右往左往する気配がした。
暫く待っていると、再びドアが開いた。
今度は城で見ていたのと同じような格好である。
「お待たせしました。
どうぞー」
その間の抜けた顔に、ラオウはつい笑ってしまった。
家の中はこざっぱりしたもので、
生活感がまるで無かった。
本当にここで起居しているのかと思われるほどである。
「先に連絡の一つくらいくれてたら、
私だって起きて用意してましたよ?」
ぷんすか怒りながら茶を煎れてくれる。
水の貴重な時代に、
茶の用意などしていたのだな、と驚く。
「暇なのだろう?」
「暇だけど、暇じゃない。
ゆっくりするのに忙しいんだから」
にへら、と笑う。
その顔があまりに幸せそうなので、
少し胸が苦しくなった。
それから、リュウガの話を少しした。
彼は如才無く働いていると伝えると、
は満足そうだった。
「昔、お前は何の目的で旅をしていたのだ?」
話すネタが無くなったので、
ずっと聞きそびれていたことを聞いた。
は「恥ずかしいなあ」と言いながらも答えた。
「世間を見て回りたかったんですよ」
と。
「旅することが目的の旅で、
まあ、その金は道中なんとかして自分で稼ぐ、みたいな。
初期投資をしっかりしたので、
盗賊からは基本逃げ切れてたんですけどね」
最初にラオウに会ったあの街で失敗しました、と。
「助けてもらって、本当にありがとうございました」
にっこり、と笑った。
「最後の巡視は……」
「う、もう辞めたから時効ですよね?」
いたずらがばれた子どものように、
はへへへ、と笑った。
「よくも無駄金を使わせてくれたな?」
「いや、必要だったんですよ?
あれのおかげでリュウガさんも今、
そこらへんの税制改革してるはずなんですから!」
だから拳王軍の財政は黒字です、と
は豪語した。
そうなのだろう。
全て
にまかせていたが、
自分でも、少しは興味を持たねばならない。
「あと、もうサザンクロスのことは本当に良いんですか?」
ぼんやり反省していたところに、
ハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けた。
何故、
はいつもそんな話題を突然出すのか。
「良い」
「シンでしたっけ?
その人の言うこと全面的に信用するんですか?
リュウガさんならもう少し詳しく調べてくれると思いますよ」
「くどい」
ユリアは死んだ。
それで納得した。
別にもう、それで良い。
は「そうですか」と話を切った。
何より、
に一番触れられたくない話だった。
「そういえば、こんな所で油売ってて良いんですか?」
「黒王号が戻らんからな」
「呼べば来るんじゃないの?」
「来なかった」
「嘘つき」と、
は笑った。
ラオウは「嘘ではない」と反論した。
事実、来なかったのだ。
ラオウがそう言うからには、それが事実なのだ。
こうして、くだらない話がしていたかった。
世紀末覇者拳王となることは、自分で望んだことだった。
だが、ラオウの全てが拳王となった訳ではなかった。
のところで暫くしゃべった後、
黒王号が“やっと呼びかけに応えた”ので、
ラオウは城に戻った。
リュウガは何も言わなかった。
レジスタンスは増えていた。
また、捕まえた拳法家も多くなった。
それらを全て処理していかねばならない。
拳王としての職務をこなしていると、
弟のトキを捕らえたという知らせが届いた。
病を得たトキに用は無い。
ただ、ケンシロウと会わせるなという命令を出して、
牢獄の中でも最も厳重な警備の部屋につないでおくよう命じた。
また、トキの名を騙らせているアミバからも続々と報告が上がってきた。
人体実験は効果が上がっているようだ。
金を与えて、続けるように言った。
ふらふらしているジャギは、
どうやらケンシロウの名を騙っているらしかった。
別にラオウにとって迷惑ではないので放っておく。
ケンシロウが不甲斐ないのが悪い。
拳王は冷酷だった。
拳王は残虐だった。
なぜならば、人は力と恐怖で押さえつけなければ、
勝手気ままに暴れだすからだ。
拳王は一人だった。
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