sanctuary
はラオウが思っていた以上に有能な人間だった。
地盤を安定させるべく奔走してくれているし、
彼女にまかせておけば安心できた。
野心というものがまるで感じられない。
だから、次の城を攻めるときも、
僅かな供回りと
をつれていくことにした。
ここに残しておくよりは安全だろう。
自身はどちらかというと嫌そうだったが、
後処理はお前以外の誰がするのだ、と叱咤した。
勝手にバイクをまた借りて、
後ろに
を乗せた。
はそのことに対して不服そうだった。
すべきことは、一度目とまったく同じである。
兵隊が欲しい。
だから、兵隊の犠牲は最小限に抑えつつ、
敵の頭を潰す。
が最初に注意したように、
組織だった勢力はほとんど悪党しか居ないらしく、
人間の質は最低だった。
が、今は贅沢を言っていられる時期ではない。
己の力の前にひれ伏している間は、問題は無いのだから。
まったく手ごたえのないままに二つ目の城を落として、
に処理を任せる。
彼女の身の安全を守るためにも自分も暫く留まらねばならないが、
休息と、綱紀粛正のためには良いだろう。
前の城の人間と、
が突貫工事で作った規律を全体に伝える。
守れない人間には、死あるのみである。
また、惰弱な人間は要らない。
そう最初から伝えておく。
一度目で要領を掴んでいたのか、
予想よりも早く処理が終わったという報告が来た。
その報告のあと、
は残って、こう言った。
「あの、私の代わりの人は見つかりました?」
しどろもどろに聞いてくるが、目が泳いでいる。
「いや、まだだな。
お前にはもう暫く働いてもらわねばならん。
頼りにしている」
そう、頼りにしていた。
ラオウ自身は数字の多い書類に慣れていなかったし、
彼女のように計算も速くない。
それを労う意味もこめて、
ラオウは
に多めに報酬を渡すことにしていた。
論功行賞でも、
の役割を皆の前で評価した。
そうしておけば、文官となるべき人間も集まるものと考えた。
しかし、まだまだ足りなかった。
暫くして、兵隊たちだけで向かわせた城も陥落したと連絡が入った。
今居る城の主の選定も
に任せ、
そちらに向かわねばならなかった。
なぜならば、
その城の主は降伏を申し出たからであった。
をつれてそちらの城に入ると、
元の主が臣下の礼でラオウを迎えた。
「我々は、拳王様が破竹の勢いで勢力を拡大されている昨今、
これ以上の抵抗は無意味と知り降伏いたしました。
ささ、どうぞおくつろぎくださいませ」
慇懃な話しぶりに、虫唾が走る。
ならばなぜこの部屋に殺気が満ち満ちているのか。
説明してもらいたいところだった。
「そうだな。
この城にはまだ、反抗する勢力が残っているようだ。
さて、お前に分かるか?」
を自分の後ろに隠しながら、
元の城主に尋ねてみる。
彼は動揺する気配もなく、
暫く部下達を見回すと、
一番殺気を隠すのが下手な一人を指して「あの男ですかな」と言った。
「そうだな。
殺せ」
そう言って、壁にかけてあった剣を城主に投げた。
城主は無表情に剣を抜き、
おびえる部下に突き立てた。
「よろしいですかな?」
「その首謀者はお前であろう?
ここに居る者、全ての首を刎ねてくれるわ!」
余計な手間をとらせおって!
ラオウは部屋にいた、
以外の人間を皆殺しにした。
別に造作の無いことである。
「
」
「はい、何でしょう?」
顔色が少し悪いのは、
あまり死体を見慣れていないからだろう。
以前もそんな顔をしていた。
「掃除の手配をしろ」
「はい」
先に別の部隊が入っているので、
彼女が指示を出せる人間は多く居るはずだ。
逃げるように部屋を出ていったのを見送って、
ラオウは一人、血まみれの玉座に座った。
ぬるい。
手ぬるすぎる。
力が全てと言いながら、
中途半端な力しかもたず、
それでいて策を弄して勝とうとする。
そんな塵芥のような人間が多すぎる。
ラオウの部下達が、掃除をすべくわらわらと入ってきた。
死体を引っ張り出し、血を流していく。
戻ってきた
が、
この城が一番設備が整っているので、
しばらくここを拠点にしてはどうか、と言った。
たしかに、多くの兵力がもとからあったので、
ここならば暫くの使用に耐えうるだろう。
「あと、この辺りに凄い馬がいるって評判なんです。
一度探しみてはどうでしょう?」
その間に枝葉となる拠点の整理もさせてください、
と
は言った。
「たまには息抜きも必要か」
ラオウがそう言うと、
「私も息抜きしたいんですけど」
と、
が苦笑した。
「まだだ」
ラオウはそうぴしゃりと返した。
今、
に抜けられては困る。
「命って、かなりの代償で助けてもらうものなんですね」
と、
はぼやいた。
それがあまりにげっそりした様子だったので、
ラオウは笑ってしまった。
が言ったとおり、規格外の馬を見つけた。
黒の艶やかな毛並みの馬で、
ラオウはその馬に黒王号と名づけた。
つれて帰ったが、
ラオウ以外の人間が近寄ると機嫌を損ねるので、
慣れさせるのに時間がかかった。
その間に、
は他の二つの城から、
各地に警備の兵隊を出す案を作っていた。
「街の治安を守っているということにすれば、
税金を収めるように言ってもあまり文句も出ないでしょう。
農業が定着すれば、食料に困ることもありませんし。
あと、水が出る街もいくつかありますからね」
どうでしょう?
と聞かれても困る。
が、悪い話では無いと思った。
最初に
に出会ったときのような、
面倒が減るのであれば良いことだろう。
だから、そうするようにと命じた。
城が三つになったことで、
の雑務は三倍以上になったようだった。
各城での裁量を増やして、
ラオウには直属の部隊を増やすように配置を換えた。
の部屋に行くと、
鬼のような形相で書類をにらんでいた。
ラオウが声をかけると、
「へ?」と間抜けな声を出して顔を上げる。
「……やせたな」
「拳王様と出会ってからやせ続けてますよ。
おかげでサイズ、二つも下がったんですから。
どちらかというと、やつれました」
よよよ、と泣いた振りをする。
その様が面白かったので笑うと、
部屋に居た別の者がぎょっとしたような顔になった。
「ここのお城、かなりお金溜め込んでますね。
武器とかをそろえましょう。
近くの情報も書かれた地図もあったので、
ご覧になってください」
が指示を出して、
地図が運び込まれてきた。
部屋の真ん中の大きな机にそれを広げる。
「この辺りの地図ですね。
城には城主の名前も入っています。
ご存知の名前はありますか?」
が地図の四隅に文鎮を置いている。
ラオウは地図をじっくりと眺めてみたが、
一人だけしか名を知るような者は居なかった。
「リュウガ、だな」
「ここですか……。
では、一度書状を送っておきましょう。
根回しとか顔つなぎって、商売でも重要なんですよ」
はそう言ってメモをした。
「この城の兵士がほとんど全部手に入りましたけど、
使い物になります?」
「いや、未だもう少しだな。
惰弱なものだ」
ラオウがそう嘆息すると、
はあからさまに嬉しそうに微笑んだ。
「嬉しいか」
「ええ、そりゃ、
私の仕事の猶予ができるってことですから」
休憩にしましょう!
と
は御茶の準備を始めた。
「拳王様は甘いものは召し上がります?」
そういえば、この城に入ってから気づいたことがあった。
「
、お前は拳王様などと呼ばなくて良いぞ」
ラオウが指摘すると、
は笑った。
「だって、私が呼ばないと示しつかないじゃないですか」
「良い。
それに、今は休憩中だ」
「そんな事言って、
ラオウって呼んだら殺されるとか、無いですよね?」
が笑いながら御茶を出したので、
「無い」とラオウも笑った。
そう、今は休憩中なのだから、
肩肘を張っている必要などないのだ。
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