sanctuary


次の朝、とラオウが最初にしたことはバイクを探すことだった。
街中を歩いていると、既に中古品として店頭に並んでいた。
ラオウの威を借りてが押すと、
あっさりと返してくれた。
昨日の店とつながりがあるとしか思えない。

バイクを取り戻して心の余裕ができたので、
宿にしているビルに戻った。
とにかく、ラオウが何をするためにの力が必要なのか、
まだ確認もできていない。

「で、ラオウは私の知恵を何に使うの?
 旅?」

が軽い気持ちで尋ねると、
ラオウは少し考えてからこう答えた。

「いや、俺は兵隊が欲しい」

ヘイタイ?

「え、私悪事に手を貸すのは嫌よ?」

「俺は天を掴む。
 そのためにはまず武力だ」

物の相場も分からない程度に世間知らずで、
助けに来てくれるくらいだから良い人だろう、
と高をくくっていたのがまずかったらしい。
とんでもないのに出くわしたようだ。
天を掴む、というのも悪事かどうか判断つきかねた。

「うーん、この辺りで組織になってるのって、
 悪党しかいないんだけど……」

「では、その頭を取ろう」

確かにラオウは強い。
強いが、そんなに簡単に組織の頭を潰せるだろうか?

「そんな簡単だったら誰も苦労しないわよ。
 なんとか拳の使い手、っていうし」

「ほう、それは面白そうだな」

お話にならない。
ついでに言うと、逆らってみる空気でもなかった。
言い合いになったところで、
ラオウがその気になればは即死亡である。

「本拠地はここからバイクで二日くらいかな。
 行ってみる?」

「ああ、案内しろ」

作戦会議、終了。
大まかな内容はこうである。
本拠地に案内する。
ラオウが首領と戦う。
以上。

地図を広げて、現在地と敵本拠地の位置を確認する。
街から出るには、最寄の門からで良いようだ。

「はあ……あとラオウのバイクね。
 私のと同じようなスペックのがあれば良いんだけど」

「あれはタンデムだろう」

「……確かに、タンデムなんですけどね」

ラオウが運転する。
が後ろに乗る。
これが常道だろう。

「その勢力の中で一番良い物を奪う。
 時間がもったいない。
 行くぞ」

ラオウはから鍵をひったくってバイクにまたがった。
悔しいが、よりもバイクのサイズに合っている。

「乗れ」

「……はい」

はおとなしく、ラオウの後ろに乗った。
バイクはうなり声を上げて、一気に加速した。






旅の予定は順調で、の予定どおり二日で本拠地前に到着した。
途中で警備している人間に出会うことは予想していなかったが、
ラオウはまるでハエでも払うように打ち倒して、
快調にバイクを飛ばした。

到着して、すぐには隠れようとしたが止められた。

「私、戦わないって宣言したはずですけど」

「お前がそこで隠れていて、
 無事で済むと思うか?」

ラオウに言われて、は納得した。
確かに、一人で居たらつかまるだけだろう。

「安心してついて来い」

にやり、とラオウは笑って門に近づいた。
既に哨戒の部隊が倒されたという連絡は入っているのか、
城は完全に閉ざされている。

「開けろ」

ラオウが外から呼ばわったが、中から返事は無い。

「腑抜けどもが!」

切れるのが早すぎだろう。
はそう思ったが、
ラオウはコンクリートの壁を破壊して中へ入っていった。

彼は門を開けようが、開けまいが関係ないらしい。

は門の外から中の様子を暫く伺って、
敵が全滅してから中へ入った。
ラオウが手招きしている。
濃い、血の匂いがした。

気分が悪くなりながら奥へ進むと、
城の主らしき大男が出てきた。

「お前が城主か?」

「そうだ。
 馬鹿め、一人でしかも、女連れで城に乗り込むとはな!」

「御託は良い。
 うぬは城を明け渡すつもりはあるか?」

笑う大男の前で、ラオウは微動だにしない。
どちらかというと、今までで一番力をためているような。
そんな気配がした。

「あるわけ無いだろうが!!」

大男が拳を振りあげたが、
その前にラオウの拳が男の腹に命中していた。
そして、背中から内臓が飛び散った。

「首領は死んだ。
 俺が新しい首領だ。
 文句がある奴は今すぐ前へ出て来い」

あまりに呆気ない、一瞬の出来事だった。
この辺り一帯を力で押さえつけていた男が、一瞬で。

ラオウの問いかけに、誰も答える者は居なかった。
だから、この城は今日からラオウの物だった。





その後の処理は、が指示を出さねばならなかった。
ラオウはそのためにつれてきたようだった。

元から居る文官から財産の目録を出させ、
いくつかの部隊の隊長に出頭するよう命令を出す。
ラオウは次の城に向かいたがっていたが、
最初から大きなところを取るのが悪い。

ラオウに確認して、この集団の名前は“拳王軍”となった。
彼は城や財産が欲しいわけではなく、
兵隊が欲しいのだから軍となった。
当然である……はずだ。
集まってきた隊長の中で反抗的な者をラオウが殴り倒し、
これで新首領に従う者ばかりになった。

「どうして“拳王軍”なの?」

と、は尋ねた。
ラオウはにやり、と笑って答えなかった。

この城はやたら無駄な支出が多かったようだが、
それなりに財産が溜め込まれていた。
はそれらの書類に目を通し、
今までの出納係に命が惜しくば軍にまわす金以外を削れ、と命じた。
命をとるのはではなく、ラオウであるが。

そういった雑務の進捗状況は、
一応あった玉座に座るラオウに逐一報告する。
脳みそフル回転のせいで、頭から火が出そうだった。
商人ではあるが、こんな規模で金を動かすことはないし、
人を動かしたことはもっと無い。

ラオウはあまり興味が無いようだった。
軍をいつ動かせるのか、ということが気がかりなようだった。

城の運営の目処が立った辺りで、
ラオウの我慢の糸が切れた。

「おい、次へ行くぞ」

ラオウがそう言ったので、
はこの城の主として権力欲の強そうな隊長一人を任命し、
次に攻める勢力の選定に入った。
といっても、地続きに隣接する二つのうちどちらか、
という選択をラオウに委ねるだけである。

「東の城にはやっぱり、なんとか拳の使い手が、
 西の城にはすごく兵隊が多いという噂ですよ」

「時間が惜しい。
 俺は東へ、
 この城から出せる兵力全てで西を潰せ」

「ここ、襲われませんか?」

「主を決めたのだ。
 死ぬ気で守らせろ」

ラオウの命令を伝えて、は軍を出発させる準備にとりかかった。
ともかく、書状を出してこちらが攻めることを伝える。
味方に伝えることは簡単である。
城を取って、働きの良かった者を主に据える。

は目の回るような忙しさの中で、
何故ついてきてしまったのだろうか、
と真剣に悩んだ。