haze
リューナに城を案内してもらい、
部屋と、女官の仕事の説明を受ける。
仕事の中身はヒョウのところで説明を受けたのと大差なく、
は復習のつもりで話を聞いた。
「で、だいたい二人一組なのよ。
私のコンビが
。
よろしくね」
リューナは笑顔でそう言ってくれた。
家事が得意ではないと言い出しにくかった。
「頑張って仕事覚えます……」
それが、精一杯だった。
女官ばかりで使う食堂があり、
そこでおいしい晩御飯を頂いてすぐに部屋で休んだ。
次の日から、仕事が始まった。
初日は掃除だった。
「みんなカイオウ様が怖いから、
二人一組の三交代で仕事を回してるの。
明日は食事の配膳で、明後日が朝夕のお召し替えの準備。
明々後日はまた掃除。
ま、直接カイオウ様にお近づきになるのは、
ご飯ならべて、着替え用意するときなんだけど……」
リューナは高速でしゃべりながら、
高速で作業を進めていった。
がリネン類を取り替えている間に、
机の上を片付けて、拭き、そして棚の埃を払った。
「頑張ってね。
私いっつも震えちゃって睨まれるのよ…」
「はあ……」
仕事を押し付けられている気もするが、
掃除は苦手なので、彼女に助けてもらっている。
仕事を覚えないと、と
は自分を励ました。
「食事をお出しするのは朝夕だけ。
お昼間は針仕事とかあるんだけど……苦手よね?」
リューナの視線が
の手元を見ている。
隠せるものではないし、
もはや隠しようも無いのかもしれない。
「……最善を尽くします」
「じゃ、お召し替えのときもよろしくね」
意図せずして、カイオウに接近するチャンスは増えたようだ。
を送り込んだヒョウの目的が達成される。
どうせ、一月の期限付きなのだ。
ちょっとぐらい怖い目を見ても、
あとでセンに愚痴ってやれば良い。
気が重くなりながら、
は掃除を続けた。
次の日、問題の配膳の時間がやってきた。
お食事をカイオウ様のテーブルにお出しするのである。
どの位置にどの皿を置くのか、
事前にリューナからみっちり教えてもらった。
あとは手元が滑って、
カイオウの顔にぶちまけないように祈るばかりである。
「さ、行って!」
リューナに押し出されて、
は部屋の中へ入った。
「失礼します」
ぺこり、とお辞儀する。
カイオウはすでに鎧を着込み、
どうでもよさそうに「うん」とか何とか言った。
昨日と違うのは、
その体から何も炎のようなものが出ていないことである。
そんなことをいちいち指摘する余裕は無いので、
おや、と思いながらも言われたテーブルに近づいた。
テーブルの上に、皿を並べる。
カイオウが席につくのを待たなくて良いと聞いていたので、
グラスに冷えた水を注いだ。
できた。
あとは部屋を出て行くだけである。
顔を上げると、
カイオウがこちらを見ていた。
冷や汗が流れる。
何か粗相をしただろうか。
「……何か、粗相でも?」
「センの妹だな?
俺が恐ろしくないのか?」
は全身で恐怖を表していたつもりだったが、
伝わっていなかったらしい。
「怖いです」
「その割りに落ち着いている。
いつも女官は怯えているのでな、
こちらも気を使う」
カイオウはにやり、と笑って近づいてきた。
怒られるのかと思ったが、
ただ席についただけだった。
昨日ほどの敵意を感じないのは、
ただ機嫌が良いだけなのだろうか。
は何と答えたものかと少し考えた後、
「お気遣いありがとうございます」と言った。
「かまわん」
カイオウはそのまま食べ始めた。
は予定通り、「失礼します」と言って部屋を出た。
出たところで、待っているはずのリューナが居なくなっていた。
おかしいな、と思いながらカートを押して元の所へ戻すと、
リューナ以外の女官達が束になって押し寄せてきた。
「カイオウ様と会話したの!?」
「大丈夫?」
皆、心配そうな顔をしている。
それと同時に、
好奇心が隠し切れないでいる。
「……普通だったけど?」
どうやら、リューナが全体に言いふらしたらしい。
彼女は信頼できない人柄のようだ。
会話事件のせいで、
夕食の配膳も
がすることになってしまった。
品数が増えて、覚える項目がどっと増えた。
覚え切れなかったので、
カンペをカートに貼り付けて出陣した。
が皿を並べていると、
カイオウはさっさと席についた。
どうやら、一応気を使って距離を取ってくれていたらしい。
それが、
には必要なしと考えたのか、
席に着くようになってしまった。
怖い。
手が滑って、
カイオウの顔に皿をぶちまける図が頭に浮かぶ。
しかも熱いスープを。
考え始めると、どんどん悪い方向へ考えてしまう。
カンペをちら見しつつ配膳しながら、
先日のヒョウとの会話のときのような顔で、
カイオウが怒るのを想像した。
炎を噴出して、鬼のような形相で怒る。
もうそれは化け物だった。
皿を並べ終わって、
礼をして、
部屋を出る。
やたら時間がかかったように思われた。
部屋からでたところに、女官仲間達が並んでいた。
どうやら、仲間と思っていたのは
の方だけらしく、
皆一様ににんまりと笑っていた。
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