お祭り騒ぎ
ご苦労、小十郎。
あ、
ちゃん!
いらっしゃーい!
ささ、座って座って。
俺様の隣へどーぞ!
い、いえ、大人数ですので橋の上で結構です!
あれ、武田様のお姿が見えませんが?
お館様は上杉殿の桟敷におられる!
このような場でなければ杯をかわすことも無いと。
だから俺らもこっちに来た訳よ。
それがさっき選んだ着物か?
coolだな。
あのおっさん、趣味だけはまともだな。
う、ありがとうございます。
皆様褒めてくださるのですが、
身に過ぎた物をお借りしておりますので大変緊張しております。
まあ、慣れだから気にすんな。
座る場所だが、そっちが嫌なら俺の隣もあいてるぜ?
政宗様!!
そちらさんの近くじゃ片倉さんも緊張しっぱなしだし、
やっぱり俺様の隣で良いんじゃない?
待て。
妙な動きをされては困る。
俺と、そこの忍の間に座ってもらおうか。
心配しすぎだよ、右目の旦那。
ちゃんはそんな特殊な訓練を受けた人間じゃないし。
ほう?
何故分かる?
足湯に落ちて全身ずぶ濡れになるくらい鈍くさいの。
騙されやすいし、全然鍛えてないし。
腿なんか柔らかいのなんのって。
ぎゃーーーーーっ!!!
破廉恥へぶぅっ!?
ほらほら、大将、お客さんの前だから!
ただ神経が図太いだけ……だと……!?
そーそー、そういうこと。
単に何も知らないってだけなんじゃないかと思うけどね。
松永相手にあれだけ文句を言える娘なんて、
数えるほどしか居ねぇだろうよ。
そういう意味じゃかなり貴重な人材だろうな。
……褒められて、ませんよね?
気にしない、気にしない!
さ、誤解も解けたようだしどーぞ!
う……では失礼します。
……手前ぇ、何でこっちに詰めて座るんだ。
やだなあ
ちゃん、遠慮しないで良いって。
……。
だからどうしてこっちに詰めるんだ!?
佐助、なぜそう詰めるのだ。
お主と片倉殿に挟まれて、
殿が狭そうではないか。
ぶっ……ははははははっ!
政宗様、笑う場面では!
俺様がちゃーんと見てるから、こっちにおいでって。
そういえば
殿、質問があるのではなかったか?
はい……上様から質問を預かっております。
真田様、猿飛様には先ほどお聞きしましたので、
伊達様、片倉様、回答をお願いします。
Q1:本日お越しいただいた一番の目的は?
A1:将軍の面でも拝んでやろうかと思ってな!
桟敷に上がれる人間が限られていたから、俺は護衛だ。
Q2:楽しんでいただけていますか?
A2:そこそこだな。
Q3:本日の目標は?
A3:別に特に定めちゃいねぇな。
京にも今後用があるから、丁度いい予行演習だ。
Q4:この祭に一つ手を加えるなら、どのような部分ですか?
A4:別に祭自体にゃ興味ねぇからなあ……
ありがとうございます。
では、最後に松永から託された質問です。
Q5:片田舎に引きこもっていて、
竜と呼ぶには些か力不足ではないかね?
A5:あの野郎……っ!
落ち着け、小十郎。
すみません、毎回怒らせるような質問なんです……。
では、失礼します。
ちゃん、これも美味しいからどーぞ!
いえ、その、お気持ちだけで。
お邪魔しました。
○ ○ ○
猿飛様は表面上お優しいのですが、時折目が怖いというか……。
身の危険を感じますよね。
真田様のおかげで何とか質疑応答も終えられました。
先ほどのやり取りからは予想できませんでしたが、
常識もある程度お持ちなのですね。
ええと、伊達陣営はこの機会を色々な目的で利用しよう、
という野心のようなものが感じられました。
片倉様が伊達様の身を案じられるご様子には、
主従とは斯くあるべしという姿を見せていただいたような気がします。
ところで風魔様はどこにいらしたんですか?
秘密ですか?
あんな席でこんなか弱い娘に己の身を守らせないで下さいよ。
怖かったんですから。
義輝の桟敷に戻るころには、回転盤はとまっていた。
最後の集計をしているらしい。
「武田の忍と随分良い仲だという話だが、
もう少しゆっくりしてくれて構わないよ?」
「心当たりがさっぱりありませんが、
何の話をされているんでしょうか?」
戻った早々に何という爆弾を投げてくれるのだろうか。
「楽しそうな話ねぇ」とマリアが参戦してくる。
「余にも聞かせてもらおうか」と義輝も続く。
「ですから、大変な誤解をなさっています」
が仏頂面で言い切ると、皆にやにやしながらも引いた。
何なのだ、一体。
は自分の膳の湯のみをとった。
まだ半分くらい水が残っている。
落ち着かねば、とぐいっと湯のみを傾けた。
そして後悔した。
「ぶへぇっうえっ……げっほっ!?」
「大丈夫かね」
久秀がさも心配しているという風な顔で背中を撫でる。
「これ」
「うん?」
「お酒入れましたね?」
「さあて、何のことやら」
水を、と久秀が給仕に来た女官に言いつけた。
その水を待っている間に、視界がぐるんぐるんと回っていく。
「卿は何も心配せず、休んでいると良い」
久秀のそんな言葉が聞こえたような気がしたが、
彼の口からそんな優しい言葉が本来の意味で出てくる訳がなく、
不気味で仕方が無かったが、
は気分の悪さに耐え切れずその場に倒れこんだ。
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