お祭り騒ぎ
はどんよりとした気持ちだった。
久秀の選んだ着物の趣味は良いのだろうと思ったが、
価値がいまいちよく分からないものの高級品の雰囲気がして、
着心地を楽しむなんていう気分にはならなかった。
桟敷に戻ると義輝もマリアも着物を絶賛してくれたが、
やっぱり
にはよく分からない。
更に言うと、言葉通り久秀はきっちり着付けてくれた。
なぜそれほど女性の着付けが上手なのかはさておき、
なんだか非常にかっちりしている。
それがまた緊張する。
あと、武田の若虎にはあらぬ誤解を受けているような気がする。
破廉恥って何だ。
確かに外側の一枚をひん剥かれたが艶っぽい展開なんてなかったし、
中にはまだ着込んでいるし、
叫んだ本人が雇っている忍の方が破廉恥である。
「回転盤の修理もやっと終わったようだな。
あれほどの重量のあるものを転がすには無理があったようだ」
「最初から考慮に入れておけば、
もう少し強度のある部材で作らせたのだが」
義輝がむう、と腕を組んだ。
「面白ければ良いじゃない。
妾は好きよ」
マリアが楽しそうに言う。
彼女もご同類なのだ。
姿を消していた小太郎が戻っていたので、
は桟敷から逃げ出した。
金糸、銀糸をたっぷりつかった帯とか、
これだけで何年分くらい給料ふっとぶんだろうな。
この差し色の黒も艶のある黒だし、確実に絹よね。
うわあ……。
さあ、気を取り直して参りましょう。
次は徳川様の桟敷です。
本日は徳川家康様、本多忠勝様、
そして本多様のご友人である井伊直虎様がお見えになっています。
本多様は体調が優れないということですが、大丈夫でしょうか?
○ ○ ○
失礼します。
お主が
殿か。
直虎殿が先ほど見かけたと話を聞いてな。
大丈夫だったか!?
ええ、はい、この通り高そうなお着物を選んでくださいました。
汚したりしないかと、緊張で嫌な汗が出てきます。
……口に出来ぬなら、良いのだ。
ここに愛刀があれば、叩っ斬ってやるものを!
直虎殿、仔細が見えんのだが。
ほんと大丈夫なんですよ!
細かい上司ってだけで。
ええと、本多様が体調が優れないとのことですが?
おお、そうなのだ。
しかし忠勝のおかげで随分勝てたし、もう十分楽しめたよ。
本多様はどちらに?
何を言っているのだ。
お前の隣に立っているだろう。
大変失礼しました。
……ええと、こちらの鉄の塊のような?
強そうだろう。
本多殿はやはり他の男共とは違う!
直虎殿にそう言ってもらえると忠勝も喜ぶよ。
大変立派な武具をお召しなのですね……。
では、皆様お揃いのようですので、
上様から預かっております質問にお答えいただければと思います。
Q1:本日お越しいただいた一番の目的は?
A1:将軍からのお召しだったからだな。
部下にまで気を使う男だから息抜きに誘ったのだ。
私はまあ、付き添いだ。
Q2:楽しんでいただけていますか?
A2:ああ、勿論だ。
忠勝の意外な特技も分かったしな。
それなりにな。
Q3:本日の目標は?
A3:忠勝の新装備の開発費用になれば良いと思っている。
折角京にまで出てきたから、衣の一つでも買えるくらいかな。
Q4:この祭に一つ手を加えるなら、どのような部分ですか?
A4:わしはこういった催事の企画は苦手なのだ。
女への一定の配慮は認めるぞ。
足湯は確かに気持ち良かったしな。
ありがとうございます。
では、最後に松永から託された質問です。
Q5:裏切った主君に再会する気分はどうかね。
A5:……。
えー…と、ぎゃああ!?
本多様!?
A5:良いのだ、忠勝。
これもわしが選んだ道なのだ。
豊臣の皆も楽しそうで何よりだ。
松永……あいつは本当に性格がねじくれているな。
ありがとうございました。
松永の質問にも寛大に対応していただきまして、
大変助かりました。
殿は何も悪くないしな。
困ったことがあれば、相談にのるからな!
あんな性根の腐った男とまともな会話ができるとは思えない!
心強いです。
本当にありがとうございました。
○ ○ ○
徳川様の桟敷は皆様大変寛いだ様子で、
楽しんでくださっているようでした。
本多様が体調不良とのことでしたが、
私にはちょっと分かりませんでしたし……。
風魔様は分かりましたか?
うーん、ですよね。
では次は、伊達様の桟敷になります。
こちらで最後ですね。
独眼竜伊達政宗様のほか、
竜の右目、片倉小十郎様もおいでになっています。
松永様が珍しく他人を褒めておられたので覚えております。
その片倉様が仕える伊達様。
どのようなお方なのでしょうか?
楽しみですね。
○ ○ ○
……風魔様。
怖い人がこちらを睨んでるんですけど大丈夫なんでしょうか。
え?
大丈夫って?
本当ですね?
信じますからね?
げほんごほん、失礼します。
ええと……片倉様?ですか?
そうだ。
政宗様は今、武田の桟敷におられる。
お前を案内するよう言付かっている。
お手数をおかけしてすみません。
だがその前に一言言っておく。
何か粗相を……
妙な真似しやがったら、無事で居られるとは思うなよ?
ひぇっ!?
ええと、善処します。
……行くぞ。
風魔様、なんであんなに片倉様は怒ってらっしゃるんですか?
……何をごちゃごちゃ言ってる?
何でもありません!
ほら、また怒られたじゃないですか。
全然大丈夫じゃないじゃないですか、もう。
だから、手前ぇは何をごちゃごちゃ言ってるんだ!?
ぎゃあっ!?
いえ、あの、風魔様が嘘を付いたので文句を。
そいつがいつ喋ったって?
ああ、あの、喋ったり表情に出たりはしないのですが、
動きとかで察する感じなのですけれど。
……分かるのか?
分かりませんか?
分からねぇな。
……。
手前ぇが疑うに値する人物であることはよく分かったがな。
いや、その、私はそんな危険人物じゃありませんよ……?
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