お祭り騒ぎ
考えられる選択肢は三つ。
1. 「仕事場を甲斐に移します!」と宣言して解放してもらう。
2. 「佐助さん、好き!」と宣言して……解放してくれるだろうか。
3. とりあえず叫んでみる。
としては3.のとりあえず叫んでみるで解放されるのが望ましい。
どうしよう。
どうしよう。
「目ぇ瞑ってよ」
佐助が甘えたような声で言う。
「いやいやいやいやいやいや!!!!」
は佐助の体をぐいぐい押し返した。
が、やっぱりびくともしない。
武田の桟敷ではあの信玄や幸村と一緒だったので細身に見えたが、
彼もまた戦場で名を馳せる武人の一人である。
「口でも吸えば考え変わるかも……っ!?」
急に視界が開けた。
視界を塞いでいた小太郎(の見た目の佐助)が退いたからである。
「ご本人登場ってか」
小太郎が二人いた。
入り口を塞ぐように立っている一人と、物入れの奥へ逃げた一人。
奥に逃げた方は間違いなく佐助であるが、
見た目には違いが分からない。
「……分が悪いか。
俺様まだ諦めてないからね。
ちゃん、またねー」
ふわ、と奥の小太郎が跳躍した瞬間に姿が消えた。
黒い羽が数枚舞い落ちる。
「ありがとうございました、風魔様……ですよね?」
小太郎は無表情に頷いた。
やはり、風魔小太郎はこうでないと。
が無事桟敷に戻ると、間をおかずに義輝と久秀が戻ってきた。
「魔の朋のあれは凄かったな!」
「本当に。
かけた費用を取り戻せた気がするよ」
二人ともご満悦な様子である。
口ぶりから察するに、
魔王はお望みの茶器をしっかり獲得したようだ。
彼が何を用意したのか。
恐ろしくて聞く勇気がまるで湧いてこない。
「ああ、中間発表と同時に織田軍の者は離脱したと伝えてくれ。
途中退場は賞金が半分になるから注意するように、ともね」
そう言いながら、久秀は用意していた原稿を
に手渡した。
「本当に茶器だけが目的だったんですね」
「そのようだ。
卿も折角だから見に来ればよかったのに」
「ああ、それと、
鶴姫様から今のところ不正の気配は無いと言付かっております」
「そうかね」と久秀は器用に片眉だけ持ち上げた。
厄介払いしたあと、存在を忘れていたのだろうか。
あまりつつくと薮蛇なので、
はさっさと中間発表に入ることにした。
「では、中間発表に入ります」
1位 大友宗麟 様
ここに来て脅威の追い上げ!ザビー教の威光を示すか!?
2位 徳川家康 様
本多忠勝が不調でも、運で盛り返す!
3位 長曾我部元親 様
失速!このまま維持できるか!?
「ここで一つお知らせです。
織田陣営のお三方が棄権なされました。
途中での棄権は賞金が半額となりますので、ご注意ください」
は頭を下げた。
それとほぼ同時に官兵衛が盤上に放り出される。
可哀相だが、彼は逃げる術が無いらしい。
更に哀れなことに皆彼が転がることに見慣れたらしく、
反応は皆無である。
は定位置にすわり、白湯でのどを潤した。
先ほど非常に動揺したので、一際美味しく感じる。
「おや、少し着崩れているようだね」
久秀の言葉に、飲んだ白湯をふきだすところだった。
義輝は当たったらしく係の者の肩をどついている。
「い、いえ、気のせいでは?」
はそそくさと直してみたが、
今更という気持ちが拭えなくも無い。
「そうかね?
まあ、そういうことにしておこうか」
くくく、と久秀が笑った。
やはりこの桟敷は居心地が最悪である。
は逃げるように廊下へ出た。
風魔様。
余計なことは書かなくて良いですからね。
はい。
では次は軍神上杉様の桟敷に参ります。
本日は上杉謙信様と、護衛のかすが様がお見えになっております。
お二方とも見目麗しいお方。
私少々緊張しております……
ああ、今のは書かなくて良いですからね。
では、参りましょう!
○ ○ ○
お前、替えの衣があったのだな。
あ、はい、ご心配をおかけしました。
なにかあったのですか、つるぎよ。
先ほど足湯でこの者が湯船に落ちたと松永が申しておりました故。
だいじありませんか?
え、あ、はい、大丈夫です!
ありがとうございます。
本日は上様より質問を預かっておりますので、よろしくお願いします。
Q1:本日お越しいただいた一番の目的は?
A1:まつりごとをあずかるおかたのおまねき。
ことわるりゆうもありません。
Q2:楽しんでいただけていますか?
A2:はい。
つるぎもはねをのばしていますか?
お優しい謙信様……!
私は謙信様の御身が無事であればそれだけで満足にございます!
Q3:本日の目標は?
A3:かいのとらにまけぬようにはしたいですね。
Q4:この祭に一つ手を加えるなら、どのような部分ですか?
A4:そうですね、しいていうならば、
やはりおなごがたのしめるくふうがほしいかと。
ありがとうございます。
では、最後に松永から託された質問です。
Q5:くだらぬ茶番を演じてくれるなよ?
A5:もちろんのこと。
まつりをけがすようなことはいいたしませんからごあんしんを、
とおつたえねがいたい。
謙信様!
松永を討つようこのかすがにお命じください!
なりませんよ、かすが。
きょうのところはわたくしと、くぼうにめんじて。
謙信様……!
えー…っと…。
お邪魔のようですのでそろそろ失礼します。
○ ○ ○
軍神上杉謙信は涼やかな、余裕の笑みを浮かべておいででした!
最上位チームからは少し離れるものの、
好位置につけておられる軍神様。
果たして最後に笑うのは……!?
という感じですね!
個人的には麗しい光景で、演劇でも見てる気分でした。
……って、これが松永様のおっしゃる茶番なのでしょうか。
というか、かすがさんの衣借りに行ったんですね、松永様。
普通のがあって本当――…に良かったです。
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