お祭り騒ぎ


が酌を始めてから少しして、小太郎が姿を現した。
「用意はできたかね」と久秀が問うと無言で頷く。

「では再開だな」

「お、やっとか」

久秀が回転盤に目を落とし、義輝もそれに倣う。
もそちらを見た。
そろそろ白い玉が出てくる頃合である。
しかし、出てきたのは黒い塊であった。

「何故じゃああああああっ!!!」

絶叫。
黒い玉は先ほどまでとは少し異なる動きをしている。
絶叫はその玉から聞こえてくるような気もする。

「はは、も見ろ。
 あれは人かな?」

「黒田官兵衛という男ですよ。
 が回ってくれたおかげで、面白い意見が得られてね」

「ほう。
 これは確かに他では見られん。
 彼にも褒美をやってくれ」

「畏まりました」

は光秀の顔を思い出していた。
やっぱり、彼はこの二人と一緒に歓談できる種族である。
お仲間には入れないは、
小太郎を連れてそそくさとその場を離れた。





うーん……ちょっと笑えない光景を見たあとですが、
盛り上がっていきましょう。
なにせ、お祭ですからね。
運営側から盛り上がらないと。

さて、次に参りますのは……浅井様の桟敷ですね。
傾国の美女マリア様と、正義の戦士浅井長政様、
そしてその妻であり、魔王の妹である市様。
はたしてどのようなお話が聞けるでしょうか?

あ、そうそう、風魔様遠出なさってたんですね。
お疲れ様です。
まつ様のぼた餅食べます?

○ ○ ○

あら、やっと来てくれた。
いらっしゃーい。

ごめんなさい、ごめんなさい……

あの、お市様!
この通り私はなんともございませんので、お気になさらず!

市、そうやってめそめそしていると逆に失礼だぞ!

そうそう、長政がうるさいから笑ってあげて頂戴?

姉上!

お市様、本当に大丈夫ですからね?
では、上様より質問をいくつか預かっておりますので、
ご意見をお聞かせください。

Q1:本日お越しいただいた一番の目的は?

A1:妾のせいで財政が厳しいと長政がうるさいから、
   渡りに船と思って来たの。
   市も長政も賭けはしないなんていうから、
   妾ばかり遊んでいて申し訳ないわ。

Q2:楽しんでいただけていますか?

A2:ええ。
   義輝も随分派手な祭にしてくれたから、楽しいわ。

   こんな大規模な賭場……やはり将軍は悪だ!

   市は……長政様が居るならどこでも楽しいよ。

ごちそうさまです……。

Q3:本日の目標は?

A3:次の買い物の資金くらいは欲しいわ。

   賭博で勝てると決まった訳ではないぞ、姉上。

   ……。

   うるさいわねえ、長政。
   お前は市の相手をしていれば良いの。

風魔様、やっぱりマリア様って良い人なんでしょうかね?
え?
集中しろって?
すみません。

Q4:この祭に一つ手を加えるなら、どのような部分ですか?

A4:もっと絢爛豪華に……と思ったけれど、
   今でも十分楽しんでいるわ。

   もっと健全な祭を開いていただきたい!

   ……。

ありがとうございます。
では最後に、松永から託された質問です。

Q5:大事な奥方を連れて来て本当に大丈夫か?
   美貌に惑わされる不埒な輩が湧くと思うが。

A5:久秀も良い性格してるわね。

   ……。

すみません。

   いや、そなたが謝ることではない。
   他人の妻に目をつけるなどという不埒な輩は悪!
   私が即刻削除してくれる!

   長政様……!

   あーあ、ほんと暑苦しいわね。

大変失礼しました。
仲が良さそうで何よりです。

妾はまたそちらにお邪魔すると思うけれど、よろしくね。

はい、こちらこそよろしくお願いします。
ありがとうございました。

○ ○ ○

京極・浅井の桟敷はなんだかこちらが恥ずかしい展開でしたね。
お市様が大切にされているのが伝わってきました。

さて、次は豊臣陣営です。
本日は覇王豊臣秀吉様をはじめ、右腕の竹中半兵衛様、
左腕の石田三成様、島左近様、大谷吉継様がお見えです。
先ほどお話を伺った前田慶次様とは何やら因縁のある様子。
織田陣営のような恐ろしい桟敷でなければ良いのですが……。

うう、弱音を吐いてちゃいけませんね。
頑張りましょう!

○ ○ ○

失礼します……

よく来たね。
さあ座って――…と言いたいところだけれどうちは大所帯でね。
少し待ってくれたまえ。

左近!

はいはい!

お前が手すりに座り場を開けよ!

ええっ!?
落ちたらどうするんっすか!?

主が落ちる前に我が下からこの手玉で打ち上げてやる。

刑部もそう言っているから安心だな。
どけ。

うう……わかりましたよ。

あ、ありがとうございます。

気にしないでくれたまえ。
秀吉に何か用かい?

あの、上様からいくつか質問を預かっておりますので、
ご意見をお聞かせいただきたいのです。

構わぬ、申せ。

ありがとうございます。

Q1:本日お越しいただいた一番の目的は?

A1:将軍の顔を見ることだ。
   放蕩者と聞いていたが、本当だとはな。

Q2:楽しんでいただけていますか?

A2:左近が楽しんでおるな。
   我は賭博に興味が無い。

Q3:本日の目標は?

A3:無い。

   左近君の賭博が勝てるものなのか、試すことかな。

   場合によってはもっと締め上げてやらねばなりませんね。

   え!?

Q4:この祭に一つ手を加えるなら、どのような部分ですか?

A4:無い。

   外国の賭博をするなら、
   ぶらっくじゃっくというのが良かったな。

   半兵衛様も賭博に興味が?

   いいや、るーれっとは確率の問題だけれど、
   ぶらっくじゃっくはそうでもないらしいからね。

   それじゃ賭ける意味が無いですよ!

   主は一度落ちて、頭を打った方がまともになりそうよな。

確かに回転盤だけだと飽きてきますね。
ありがとうございます。
では、最後に松永から預った質問です。

Q5:こんな児戯で時間を削られる気分はどうかね?

A5:……。

   三成君、落ちついて。
   こんな機会でもなければ将軍の人柄を測る場面も無いし、
   それなりに有意義だったと伝えてもらえないかな?

すみません……。

君が気にすることじゃないよ。

秀吉様、今すぐ松永を斬滅する許可を!

今日はそんな場面じゃないよ、三成君。
お客様の前だから少し落ち着きたまえ。

お邪魔してすみませんでした。
ご意見きっちり伝えさせていただきます。
ありがとうございました。

何もおもてなしできず申し訳ない。
ご苦労様。

○ ○ ○

ああー、緊張したけど竹中様が物腰柔らかい人でよかった!

豊臣陣営は皆様それぞれに目的を持って参加されている様子。
祭だからと浮かれているのは島様だけでしょうか。
楽しんでいただければ良いのですが、
運営の松永様とはどなたも合わなさそうですし、
それも難しいのでしょうか……。

では、一度戻りましょうか。
下の皆様の様子が徐々に暗くなってきてますね。
うーん……見なかったことにしましょう。