お祭り騒ぎ
は一度深呼吸をして気を落ち着けてから、口を開いた。
「では、皆様お揃いのようですのでだーつ大会を開催します。
得点数の多さで順位を競います。
参加される方は二人一組で的の前にお並びください」
が言うと、適当な組になって的の前に参加者が移動する。
佐助は竜の右目と組んだようだった。
慶次は露出度高めの忍と一緒に立っている。
名前は確か、かすがだったろうか。
そこだけやたら派手である。
織田陣営からは勝家が、瀬戸内からは元就が出ている。
勝家はやる気があるのか全く謎だが、元就はもっと謎である。
「得点の計算方法を説明いたします。
中央が50、その外側が25。
さらにその外側、
白と黒の部分は一番外側の数字が得点となります。
外側にある赤と緑の部分は外側の数字の2倍、
内側の赤と緑の部分は3倍です。
1回3投、8回までございます。
得点の計測は係の者が行います。
高得点を狙い、皆様死力を尽くしてくださいませ」
は礼をして己の席に座った。
白湯を飲んで一息つく。
「お、やはり久秀が言う二人は良いな!
見ろ、上杉の方は中央を射抜いたぞ」
義輝が喜んで手を打っている。
「余も参加すればよかったな」
「結果の分かっている勝負ほど面白くないものはありますまい」
「ふむ……確かにそうやもしれんが」
も少し気になって、
だーつの試合が見れる場所まで移動した。
できるだけ義輝にも久秀にも近付かない限界の場所である。
直虎が投げたところだったが、
全力で投げた矢が的にめり込んでいたらしく、
係の者が抜くのに四苦八苦している。
直虎は「私を馬鹿にするな!」と叫びながら近付き、
片手で矢を引っこ抜いた。
佐助が投げた。
彼は素早く三本投げたが、
どれも中央よりもやや上に刺さったようだった。
見たところ、やはり佐助とかすがの二人は安定感がある。
勝家は淡々と投げているがそれなりにばらつきがあるし、
元就も思うところに刺さらないのか苛々している様子である。
「難しい遊戯なのですね」
がぽつりと言うと、久秀がこちらを向いた。
「無駄な力を入れず、正確に的を狙う。
精神面での鍛錬がものをいう遊戯だよ」
久秀は強そうだ、という台詞がのど元まででかかっていたが、
何とか飲み込んだ。
「意外なのは前田の倅だ。
そのせいで豊臣の軍師殿は平常心を乱されたのか?」
「そう見えるが、どうかな」
見てみると、慶次はなかなか落ち着いている。
その隣で投げている仮面の男、半兵衛は失敗も見えた。
久秀の手元に得点表が続々と届き始めた。
投げ終わった参加者がばらばらと桟敷に戻り始める。
佐助は跳躍して桟敷に戻った。
日ごろの鍛錬の賜物ではあるが、楽をしているようにも見えた。
「ふむ……予想通り、といったところか」
久秀が点数表を眺めながら言う。
義輝がそれを横から覗き込んでいる。
「まあ、致し方あるまい」
「かすがさんが優勝ですか?」
が言うと、二人は同時に
を見た。
「卿は自分で得点の説明をしておきながら……」
久秀は珍しくにやにやした表情を崩し、
あきれ果てた様子になった。
「
よ。
お前はあの的の周りの点数が見えるか?」
「ええと、はい、一応」
「最大の点数は何だ」
「20でしょうか」
「中央の得点何だ」
「50でした」
「では、一番高い倍率は何だ」
「3でした……ああ、そうか!」
漸く合点がいった。
中央よりも点数が高い場所が一箇所だけある。
20の3倍のマスである。
それは中央よりも少し上。
「一位は猿飛様ですか」
「そうだね。
彼の得点は驚異的だ。
組んだ相手も良かったのだろうが……」
久秀は憂鬱そうにため息をついた。
はそこではた、と気が付いた。
「あの、上様。
お手を煩わせて大変申し訳ありませんでした」
将軍に解説をさせた女になってしまった。
「誤解をする者もいると知る良い機会であった」
要するに想定外の阿呆だった、ということだろう。
恥ずかしい。
「では発表してくれたまえ」と言う久秀に追い立てられて、
は立ち上がって前に進み出た。
「では、だーつ大会の優勝者を発表します。
勝者、猿飛佐助様!」
「よくやったぞ佐助ぇぇぇええええっ!!」という絶叫が響いた。
おそらく幸村だろう。
「熱いな!」
と後ろから義輝が言った。
「暑苦しいの間違いだよ」
と久秀が口を挟んだが、
義輝は「やはりそうでなくては!」と言いながら頷き、
全く他人の言葉を聴いている様子は無い。
「では、回転盤の整備が終わるまで、
もう暫くお待ちくださいませ」
そのまま先ほどと同じく白湯を貰おうと思ったが、
久秀が銚子を掲げてこちらを見ていたので、
はしぶしぶ二人の間に座った。
「今回は整備にやけに時間がかかるな?」
義輝の杯に酒を注ぎながら、確かに、と
も思った。
だーつ大会はかなり時間がかかっていたはずである。
「急遽準備をさせているのだが、色々と時間がかかっているようだ。
風魔が戻ってくるまで、もうしばらくか」
久秀は顎を撫でながら空を見やる。
月が煌々と輝いているが、風魔の姿はどこにもない。
「何を用意させておるのだ」
「それはまあ、準備ができてからのお楽しみということで」
「久秀がそう言うならば、待とう。
つまらぬ物であったら容赦はせんぞ?」
「必ずやご期待に添えるかと」
あはは、と二人が笑った。
二人とも楽しそうではあるが、
ろくなことが起こらないような気もする。
(まあ、私に害がなければ良いか……)
は己にそう言い聞かせて、
空になった久秀の杯に酒を注いだ。
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