お祭り騒ぎ


ええと……あたりは騒然としております。
幸村様が桟敷から落ちましたが、大丈夫なのでしょうか?

大丈夫。
そんなくらいで怪我するほどヤワじゃないからさ。
たぶん待ってたら上ってくるよ。
こっちも美味しいからどーぞ。

わあ、ありがとうございます。
……って、何ですか風魔様?
質疑?
う、すみません、先に上様から預かった質問がありますので、
お答えいただければと思います。

うむ。

はいはい、どうぞ。

Q1:本日お越しいただいた一番の目的は?

A1:幸村は堅物にすぎるからのう。
   遊びの一つでもと思うたのじゃが、
   この通りわしも得手ではない故微妙なところじゃの。

   俺様はその付き添い。
   本人は「お館様の命とあらば!」とかだと思うけどね。

Q2:楽しんでいただけていますか?

A2:うむ。

   俺も程ほどに稼がせてもらってるから楽しいよ。

Q3:本日の目標は?

A3:特に定めておらぬな。

   給料一月分くらいかな。

Q4:この祭に一つ手を加えるなら、どのような部分ですか?

A4:ふむ……時折であればこのような祭も良かろう。
   道場の設計について松永殿から質問があったときには、
   何のことかと思うたが。

   やっぱり女の子じゃない?
   特にうちなんかむさ苦しいからさ、ほんと切実。

はあ……はあ……
思ったよりこの櫓、高いでござる……

だ、大丈夫ですか!?

うむ、問題は無い!
ずっと座り通しであったから、よい運動になった!

ええと、今(Q4)なんですが。

A4:座り通しというのは落ち着かぬな!
   体を動かすような催しがあれば良いと思う!

……ありがとうございます。
では、最後に松永様から……あれ。
やっぱり何でもありません。

何書いてあんの?

あ、見ないでください!

……。

どうしたのだ、佐助?
……破廉恥でござるぅぅぅうううっ!!

何を騒いでおる幸村ぁぁぁあああっ!!!

ここに書いてあることは事実ではありません。

ちゃん……その絶望的な顔みたら分かるから。
分かるから、落ち着こうか。
お茶でも飲んでさ。
旦那が戻ってくるくらいまでゆっくりしてよ。

ぬう……お主が松永の。

違いますから!
こんな嫌がらせして、陰険野郎!!!
あ、風魔様、今の消しておいてくださいね。
ほら、見てくださいよ。
絶対あの人、こっち見て嗤ってますから。

よほど気に入られておるようじゃのう。

気に入られたくありません!!

だろうねえ。

はあ……お見苦しいところをお見せしてすみませんでした。
お菓子ありがとうございます。

あ、ああ、気にしなくて良いよ。
旦那に全部食い荒らされるより、お菓子も本望でしょ。

気を強く持つのじゃぞ。

……ありがとうございます。






が将軍の桟敷に戻ってくると、
久秀はにやにやといつも以上に人の悪い笑みを浮かべていた。

「楽しんでいただけたかね」

「本当に楽しいですね!」

が嫌味を込めていうと、義輝がこちらを向いた。

に楽しんでもらえているならば、
 引き受けてもらった甲斐があったな!」

嫌味だよ!と言おうかと思ったが、やめた。
久秀に向かって嫌味を言ったと宣言するのと同じだからだ。

「そろそろ回転盤の整備と中間発表だ。
 卿の次の原稿だよ」

全てを知っていて、
久秀はにやにや笑ったままに原稿を手渡した。
その久秀に小太郎が書き取った帳面を渡す。

「ふむ……装備無しでは瀬戸内の二人も鬼が有利か。
 武田の方は、なかなか面白いね。
 卿は言いつけを守らなかったようだが、
 どうやら彼らには伝わったようで何よりだ」

「……いらない誤解を招くような行動は慎まれたほうが」

「面白いだろう。
 あんな渾身の打撃はそうそう見れんよ」

「……」

が黙り込むと、義輝が原稿を横から覗き込んだ。

「お、順位が入れ替わっておるな?」

「その後の催しの間、
 風魔は少し席を外すがご容赦願いたい」

「何か企んでおるな?」

「まあ、少し」

このままこの二人の会話を聞いていても、
なんだか寒気を感じるばかりなのでは原稿を片手に前に出た。

「中間発表を行います」

 1位 織田信長 様
    順調に当て続けるそのからくりやいかに!?

 2位 徳川家康 様
    本多忠勝の言葉が聞き取れれば共に勝てるかも!?

 3位 長曾我部元親 様
    自力で勝てるなら不正の必要はあったのか!?

「ここで回転盤の整備をさせていただきます。
 その合間にだーつの大会を開きます。
 優勝された方の桟敷はなんと、賞金が二倍!
 遊戯に参加できるのは各桟敷からお一人様まで。
 是非ご参加ください」

が原稿を読んでいる間に、
停止した回転盤の上にずらり、と白黒の円盤を掲げた壁が出てきた。
各桟敷からばらばらと人が動き始めた。

「久秀、二倍とはまた豪気だな」

義輝が楽しそうに口を挟んだ。

「大した額にはならぬと予想しております」

久秀の方は動き出した面々を確認し、
にやにやと笑いながら頷いている。

「ほう、誰が良いかな?」

「上杉の忍か、武田の忍か……その辺でしょうな」

「どちらも現在の賞金額は低い、か。
 まあ、大番狂わせも楽しみにしていよう」

義輝はそういって酒を飲んでいる。

回転盤の上に集まった人の数を数えてみると、
桟敷の数と同じだけいるのでこれで集まったのだろう。
互いに話しかける程度に交流のある人間もいるらしく、
何やら楽しげに話している人たちもいる。

ふと、その一人が顔をあげた。
手を振ってくれている。
佐助だろう。
は小さく手を振り返した。

「卿も隅に置けないなあ」

横から久秀が楽しそうに言った。

「何がですか?」

「とぼけるなら構わないけれどね。
 まあ、彼は主が主だから家事全般に長けているそうだし、
 なかなか出物だと思うけどね」

「……さすがにここで婚活する勇気はありません」

「そうかね」と久秀はにやにや笑ったまま黙った。

久秀には悪意がある。
悪意があって嫌味を言うし、
更に出来ないこともないけれども凄く嫌なことを強いる。

逆に義輝には悪意が無い。
悪意が無いが人を慮ることはしないし、
出来ないことでも平気でやれという。

どちらがマシなのだろうとは考えてみたが、
どちらもいるこの桟敷は一番嫌な場所だな、とも思った。