coward
サウザーの勢力から離脱するにあたって、
まず親友であるレイに連絡を取った。
ただの挨拶では無い。
共に離反しないか、という誘いである。
レイからの返信は早く、
シュウの決断を待っていたという内容だった。
遅くはなったが、親友を失わずに済んだようだった。
それから、信頼の置ける人間に声をかけた。
これからますます力をつけていくであろうサウザーに敵対する勢力になる、
という絶望的な説明でどれだけ人が集まるか分からなかったが、
それでも結構な数が集まった。
「シュウ様だからついていくんです」
という言葉をもらったときには、
今後は彼らを失望させないように頑張りたいと素直に思えた。
レイの部下も合わせれば、暫くはサウザーに対抗できるものと思われる。
更に、シュウは
を引き取った。
ゆっくり休ませ、
昼夜逆転の生活を改めさせようと思ったが、
そうすぐに変わるものでもない。
家に帰り、
が出迎えてくれて、夕食を一緒に食べる。
それだけでシュウは心が温かくなった。
その幸せな時間をそのままにしておきたかったが、
サウザーに啖呵を切ったこと、今後の見通しなど、
には全て説明した。
彼女には自分の人生を決める権利がある。
「これから私は、苦労の多い道を歩むことになるだろう。
それでも一緒に来てくれないか?」
一緒に来て欲しい。
それがシュウの願いである。
それを付け足すことくらい、許してほしかった。
「シュウ様さえよければ、どこへでもついていきますよ」
と
は笑って答えてくれた。
が心を壊す寸前まで働いたおかげで、
サウザーの領土に近接する勢力の多くが内部分裂を起している。
サウザーはこれからもっと領土を拡大するだろうし、
それに比べてシュウが持つ物は驚くほど少ない。
しかし、恥ずべきところは何もない。
それから、ごたごたがひと段落したらシバを呼び戻そうと思った。
今ならば視線に耐えられる。
父の背を見よ、と言える。
見るかどうかはシバの判断に委ねたい。
これからは、今まで考えたことも無い苦難が待っているだろう。
サウザーとの力の差はどんどん開いていくことだろう。
シュウの未来は暗い。
しかし心は晴れやかで、一片の迷いも無かった。
は緊張しながら、応接用のソファに座っていた。
隣にはシュウが居てくれる。
何も恐れることは無いと思っていたが、
一つだけ恐れるべき対象があった。
シバである。
シュウの死んだ妻との子である。
母親を失ったシバは、シュウの知人の家に預けられていた。
父親であるシュウとも時折面会するくらいで、
殆どの時間を離れて過ごしてきた。
は彼に会ったことが無い。
(どんな顔をして会えば良いのだろう)
はぐるぐると悩んでいた。
シュウは
を新しい母と紹介するつもりでいるという。
そのこと自体はありがたい事だと思ったが、
果たしてシバはすんなりと受け入れてくれるだろうか?
何人もの人間を殺してきた
を。
「……手が冷たいな。
そう思いつめなくても良いぞ」
シュウが
の手に触れて言う。
彼には感情が筒抜けなようで、
いつもうまく隠すことができない。
「でも……」
「何、心配は要らない。
私も父親と認めてもらえるのかどうか不安なのだから」
はぎょっとしてシュウの顔を見てみたが、
いつもと同じ柔和な微笑みを浮かべ、正面を向いていた。
「そんなこと」
「ある。
ほったらかしていたのだからな。
だから、私を父と呼んでくれるよう最善を尽くすつもりだ。
よき父親に見えるよう
も手伝ってもらえると嬉しい」
その言い方があまりに真面目だったので、
は笑ってしまった。
「笑ってくれるな。
真面目な話なのだ」
「私が良い母になれるよう、手伝ってくれますか?」
「勿論だ。
私がここへ来る勇気が持てたのも、
のおかげなのだから」
そう言って、シュウは
の手を握ってくれた。
はそれだけで十分安心できた。
シュウは良き伝承者、良き父親になるべく、
己の欠点を直視してなんとかしようと頑張っている。
も前を向かねばと思った。
シュウがついてくれている。
だから、
でも日のあたる明るい道を歩いていける。
人として恥ずかしくない道を。
そう思えた。
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