将星と義父と
サウザーの機嫌が著しく悪い。
ここ数日、凶悪な面構えで毎日を過ごしている。
額や眉間の皺を考えると、
その表情を作ることの方が疲れそうなものである。
は触らぬサウザーにたたりなし、
と近づかないようにしていた。
だから「明日から三日ほど空けておけ」と言われたときは、
いつものように文句など言わず、
おとなしく「はいはい」と答えた。
シュウにそれを伝えると、
彼には心当たりがあったようで、
「珍しいものが見れるかもな」と笑っていた。
には意味がさっぱり分からない。
シバは残念そうにしていた。
かわいそうなことをした。
その日のうちに、
の知らぬところで準備は終わっていた。
サウザーの家の人々は、
サウザー自身が何もしないので至れり尽くせりである。
部屋に入ると、旅行用の鞄が部屋に鎮座していた。
のサウザー邸居候はまだ続いている。
フドウから戻ってこないか、というお言葉は頂くが、
シバの師匠も楽しいし、
サウザーがかまってくれるので残っている。
サウザーは忙しい。
はまだお茶汲みに行っているが、
根が真面目なのか、面倒ごとを集めて、
まとめて処理しているようだった。
それだけ忙しいのに、
屋敷に戻ってくると
との時間を作ってくれる。
フドウのように旅に出てばかりではない。
ある一点だけは譲ってくれないが、
それ以外は
がお願いするとだいたい実現する。
だからサウザーは優しいと言うと、
レイは悲しげな顔をし、
シュウは困った顔をし、
フドウは騙されていると怒った。
アイリは羨ましい、と言ってくれたが。
次の日、
はサウザーと車に乗った。
サウザーの不機嫌は最高潮である。
できれば隣に座りたくなかったが、
仕方が無いのでずっと寝ていることにした。
到着したのは、フドウの村だった。
送り返されるのかと少し疑ったが、
「三日ほどあけておけ」の言葉を信じることにした。
三日の滞在なのだ。
が到着すると、
フドウが出迎えてくれた。
こちらも何故だか不機嫌なようすである。
笑みがひきつっている。
「ただいま、父さん」
が近寄ると、
ひきつった笑みのまま頭をなでてくれた。
「おかえり、
」
「出迎えご苦労」
サウザーが後ろから歩いてくる。
フドウの手にぴくり、と妙な力が入った。
「はははははは。
なに、可愛い娘が帰ってくるのに、
心待ちにしない親は居りませんからな」
「たまに顔を見せてやらねばと思ってな」
剣呑な雰囲気である。
話題を変えねば。
「そういえば、父さん。
菓子の詰め合わせは届いた?」
「ああ、ありがとう。
子ども達が喜んでいたよ」
「当然だ。
俺が贔屓にしている店だからな」
沈黙。
もう知らない。
最高潮に居心地が悪いので、
久しぶりに子ども達と一緒に遊びたいのだとサウザーに言う。
あまり気が乗らないようだったが許してくれたので、
はフドウとサウザーを置いて庭の中へ入っていった。
「
を返しに来て下さったのかな?」
「いや、貴様が義理でも父になるのかと思って、
一応挨拶に来てやったのだ」
フドウは今すぐサウザーを肉塊に変えてやりたくなった。
戦いから退いてしばらくたつ。
多少深手を負ってでも、今すぐ一撃食らわしてやりたかった。
「気の早いことですな」
「ふん」
サウザーのせいで、
の幸せが台無しだ。
前に「サウザーは優しいよ?」などと言っていた。
どんな術を使って
を洗脳したのか。
不幸な境遇でここにきたときの、
小さな
を思い出す。
笑顔を取り戻したときの喜び。
(それが何故サウザーなのだ!)
レイあたりが来たのであれば、許せたことだろう。
彼は気持ちの良い男だ。
それに、見た目も整っている。
若い女性に人気があるのも知っている。
(何故……!)
やっぱり今からでも遅くない。
サウザーを肉塊にしてやろう。
そう思った瞬間、
と目が合った。
が笑って手を振ってくれたので、
フドウはひきつった笑みを浮かべながら手を振った。
ぼんやり突っ立っているフドウを放置して、
サウザーは近くにあったベンチに座った。
子どもは嫌いだ。
特にシバくらいの奴は、
この世から消してやりたいとさえ思う。
ここ数日忙しくして時間を空けて、
わざわざ
が子どもと戯れているのを眺めに来たわけではない。
そんなものは頻繁に見ている。
主たる目的は、フドウだった。
フドウのひきつった笑みは見ものだった。
あれは笑える。
が、それを口に出すと
の機嫌を損ねるので胸にしまっておく。
もし、このままここに残りたいといわれても困る。
サウザーが散々教えた結果、
は蹴りだけでなくパンチも強化されていた。
あんまりすると腕まで太くなる、と
は嘆いていた。
強くなることは良いことだ。
だが、その拳をこちらに向けるのは計算違いだった。
ぼんやりと、子どもと戯れる
を眺める。
フドウを手招きしている。
サウザーを呼ばない辺り、空気を読んでいる。
何故、色気の無い服ばかり着るのだろうか。
胸元の開いたものや、スリットの深いものは全て敬遠している。
一度無理やり着せたら「破廉恥!」と殴られた。
何故だ。
フドウが子どもの輪に参加して、
遊びはよりヒートアップしている。
こら、下郎の分際で
に触るな。
貴様……10年後くらいに、殺す。
押し寄せる不穏な気配に、
は背筋が寒くなった。
なぜ、殺気があふれているのだろうか。
サウザーの方を見ると、
最近で一番の不機嫌な顔をしていた。
何故だ。
ここに来るように言ったのはサウザーなのに。
帰った後が怖いので、
そっと輪を抜けてサウザーの隣に座った。
サウザーは子ども達を睨んでいる。
「ご、ごめんなさい?」
「何故謝る」
「え、サウザーの機嫌が悪いからとりあえず」
サウザーはちらりと
を見て、
眉間を押さえながらため息をついた。
「……明日戻るが、お前はどうする?」
「え、帰るよ。
何かあった?」
聞くと、サウザーは「そうか」と言って俯いた。
俯いて高笑いを始めた。
ちょっと怖い。
サウザーの高笑いに気づき、子どもが動きを止める。
「サウザー?」
サウザーはひとしきり笑ったあと、
「明日の朝また迎えに来る」と言って立ちあがった。
そして、フドウの横で何か言って庭から出て行った。
その直後、フドウの顔が怒りで赤くなり、
直後にえもいわれぬ悲しそうな顔になった。
とりあえず、暫く遊んでいて良いらしい。
ここへは、シバと鍛錬するように毎日くるわけにはいかない。
子ども達の輪に戻ると、レツが駆けてきたので抱きあげる。
今日は子ども達が疲れて眠るぐらい遊ぶのだ、
と心に決めた。
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