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リュウガは拳王を名乗るラオウと面会を果たした。
臣下の礼を取らぬリュウガに居並ぶ武将達はざわついたが、
リュウガの申し出にそのざわつきは怒号に変わった。
ラオウは一睨みで黙らせ、「許す」と短く答えた。
「うぬの力量をこちらも試すが」
ラオウは獰猛な肉食獣を思わせるような笑みを浮かべたが、
リュウガは「ご随意に」とこちらも短く返答したのだった。
彼が課す課題とは一体何なのだろうか。
はっきりと言い渡されることは無かったが、
とにかくリュウガは客将としての地位を手に入れたのだった。
客将となったリュウガには一軍が与えられることになった。
リュウガが保有する軍は周囲の認めがあれば呼び寄せられるらしい。
つまり信用されていない、ということである。
与えられた軍にはリュウガの補佐に副将がついてくる。
その人物はリュウガがその軍を与えられることによって、
副将に降格した人物であるという。
(……よもやこれが試練という訳でもなかろう)
与えられた執務室で渡された書類を眺めながら、
リュウガはため息をついた。
まるで秘書かなにかのようにきっちりとした身なりの女性が、
書類を渡すたびに簡単な説明を添えてくれる。
どうにも預けられた軍は厄介者の集団のような気がしてきたが、
補佐の人物を付けてくれるのは有りがたい。
とにかくこの一癖ありそうな軍をまとめるのが急務であろう。
「――…以上です。
何かご質問がございましたら、お尋ねください」
「早速で申し訳ないが、この副将に早急に面会したいのだが」
そういえば、女性の名前も聞いていなかった。
リュウガが顔を上げると、女性は眉間に皺を寄せていた。
「私でございます」
妙な間が流れた。
リュウガは不躾と知りつつ爪先から頭のてっぺんまで眺めたが、
彼女には“武将”という肩書きは似合わない。
女性にしては長身で、鍛えている気配は感じるが。
「君が」
“本当に?”という質問は辛うじて飲み込んだ。
「
と申します。
ご不便の無いように、と拳王様より直々にご下命を賜りました。
部下共々よろしくお願いいたします」
眉間の皺だけを器用に消し去って、
は優美に頭を下げたのだった。
リュウガはややもたつきながら「こちらこそよろしく頼む」と、
なんとか返したのだった。
の説明によると、
そもそも彼女は一軍を預かるような人種ではないのだそうだ。
先日入手した大量の軍馬を有効活用できるよう、
馬を操ることができる人間の育成を任されているらしい。
「今は動かせる軍の殆どは外征しております。
暫く我々にも動きは無いかと思いますので、
リュウガ様にはしばらく同様の仕事をお願いすることになるかと」
「歩兵を騎馬兵に、か」
肩透かしを食らった気分である。
当初の懸念は
本人を見て解消されている。
彼女の態度が反抗的だと表現するのならば、
従順とは一体どういう状態なのかと尋ねたくなる程だ。
兵の調練くらいならば簡単にいくだろう。
「――…寄せ集めの集団ゆえいくつかの派閥があり、
どうにも私には御しきれず」
は少し顔を顰める。
「気をつけよう。
兵の調練の様子は見られるかな?」
「すぐに準備いたします。
その前に一つだけよろしいでしょうか?」
「何だ」
が居住まいを正したので、
リュウガもつられて体の向きを直した。
「一度騎馬での手合わせをお願いいたしたく」
にっこり、と微笑みを浮かべながら
が言う。
「……良いが、怪我をさせるようなことになるのは望ましくない」
「武器は刃打ちしたものをご用意いたします」
じ、とリュウガは
の瞳を見つめた。
他人を陥れようという邪念はなく、
武人としての好奇心が勝っている様子である。
「天狼拳のリュウガ様のご高名はかねがね伺っておりました。
わがままを通すようで申し訳ありません」
は良い笑顔でそう言ったのだった。
その日は城内の設備の説明やら何やら、
こまごまとした事務連絡で終わってしまったので、
手合わせは翌日に持ち越されることとなった。
はリュウガという男を疑っていた。
物静かで、腰が低く、不必要に整った顔をしている。
相手が女だからと居丈高になる輩も多く、
実力で本当に客将と認められたのか不審に思っていたからである。
手合わせは拳王府近くの平野で行うことにした。
近隣の地形の確認のついでであるが、
誰かに見られても面倒だからでもある。
は槍を、リュウガは剣を使うことになったので用意をした。
どのようなタイプの剣を使うか分からないので数種類用意したが、
リュウガは適当にごく普通の形のものを手に取った。
「よろしくお願いします」
と
が距離を取ると、
「お手柔らかに」
と、リュウガは微笑んだのだった。
その余裕の気配が気に食わない。
数合、打ち合った。
元々素手で戦う人種のようであるが、
リュウガは剣をそつなく操っていた。
の攻撃はいちいち簡単に跳ね返される。
「手加減は無用にございます」
は少し距離を取り、槍を持ち直した。
リュウガも苦笑しつつ「では」と手綱を持ち直す。
は馬の腹を蹴った。
しっかり躾けられた馬はその命令の通り急発進した。
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