贈り物
は新しい部屋に入った。
侍女の部屋ではなく、
カイオウの部屋の近くの部屋を宛がわれたのである。
もともと使っていなかったのを、
調度品から入れなおして使えるようにした。
元同僚が
の荷物を運び込んでいる。
とはいえ、
の荷物は殆ど無い。
最初は一月で出て行く予定だったので、
出来るだけ少なくしていたのだ。
それをソファに座って見ている。
酷く居心地が悪かった。
最初は自分で運ぼうとしていたが、
止められた。
「私達の仕事でございますので」
リューナは冷たい声でそう言った。
その“私達”に自分が含まれないことが、
少し悲しかった。
服と、必要最小限のこまごまとした生活雑貨と、
応急セットをしまい終えてリューナ達は部屋を出て行った。
それほど長い時間ではなかったのに、
酷く気疲れした。
兄であるセンの死を伝える手紙が届いたあの日以来、
カイオウは
に働かずとも良いと言った。
部屋も変える、と。
それからセンの墓も作ってくれた。
修羅達が眠る墓の中に、立派なものを。
暮らしていた家の管理も手配してくれたらしい。
一応、戻る家は残っているようだ。
もしカイオウが居なければ、
その手続きを
がしなければならなかった。
正直な所、色々とありすぎたので助かった。
そう考えると、頼りきりで申し訳ないと思う。
カイオウが軍の調練なんかをしている間、
はすることが無いので、
墓参りに行くことにした。
水を汲んで、掃除をして、
庭先で手折った花を手向ける。
それだけなのに、
カイオウは
に護衛をつけている。
兄と同じ装束に身を包んだ、無口な修羅である。
必要ないのではと思ったが、
リューナにああいった態度をとられては、
少し不安でもあるので何も言わないで置いた。
墓に手を合わせてから、掃除道具を片付ける。
「部屋に戻ります」と一応伝えると、
護衛の修羅はこっくりと無言で頷いた。
部屋に戻って暫くすると、
カイオウがいつもより早く戻ってくるという。
来訪を告げる伝達が来たので、
は茶の用意をすることにした。
部屋に入ってきたカイオウは上機嫌で、
小さな箱を持っていた。
大柄なカイオウが持つと、
本当に小さく見える。
カイオウがどっかりとソファに座ったので、
はその前に茶を出した。
隣に座るよう言われたので、並んで座る。
「これを」
ビロード張りの小さな箱を手渡されたので、
はその場でそうっと開いた。
中には、華奢なネックレスが入っていた。
小粒の、きらきらとしたダイヤが並んでいる。
「これは」
どういう意味なのだろうか。
と問いかけて、言葉を選んでいるうちにカイオウが答えた。
「似合うような物をと思ったのだが」
会話がかみ合わない。
「気に入らないか?」
「いえ、いいえ、綺麗です。
でも、どうして私に?」
その問いに、カイオウはにやりと笑って答えなかった。
カイオウがつけてくれるというので、
は彼に背を向けて、おろしていた髪を束ねた。
「細い首だな」
へし折られそうになりました、
と言う勇気は
には無かった。
かちり、と留め金の音がした。
胸元で輝くダイヤに触れてみる。
硬質で、ひんやりとした感触である。
「ありがとうございます」
がそういって振り返る前に、
カイオウが後ろから抱き寄せた。
そうして、首筋に唇を寄せる。
「ほしい物は何でも言え」
カイオウが言う。
「もう十分です」
「無欲だな?」
何度も、何度も唇で触れる。
少しくすぐったい。
「俺は欲深い」
その声同時に、
がり、とカイオウが
の皮膚に歯を立てた。
「っ……!」
を抱き寄せた腕に力が入る。
苦しい。
「俺の前から消えてくれるなよ?」
カイオウのその言葉に、
ようやく
は合点がいった。
兄の墓の世話も、家の管理の手配も、
をここにつなぎとめておくために。
護衛の修羅は、
を監視するために。
首がじくじくと痛み、血の臭いがした。
の血の臭いである。
カイオウが部屋を去った後、
はネックレスを外そうと留金を探した。
すぐに見つかったが、どうにも思うように動かない。
鏡の前に移動して、留金を確認する。
留金はくにゃりと変形して、
の力ではどうすることも出来そうになかった。
鏡に映る
の首筋には、
くっきりとカイオウが噛み付いた痕が残っている。
えらく高価な首輪を用意してくれたものだ、
と
は半ば呆れながら、
半ば泣きたい気持ちになった。
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