happiness
程なくして、サウザーは軍を率いて二度目の外征に出た。
には急ぐと伝えてあったおかげか、準備が早い。
前回の戦闘ではシュウには殆ど軍を率いる経験ができていないから、
という理由で今回はシュウの指示で攻城戦が展開されている。
サウザーは適当に距離を取り、戦局を眺めている。
(……さっさと出て来い、カス共が)
敵は早々に城に引きこもった。
こちらの城は守りが堅く、
門を破壊するための衝車(と
は呼んだ)が何度も攻勢をかけるが、
多少傷が入ったくらいである。
『サウザー様の軍はほぼ遊軍です』
戦の説明をする
は、はっきりとそう言った。
機動力を上げるためにバイクを与えた兵とともに、
窮地に陥った場合はそちらへ急行する。
今の所後詰めをしている。
見ているだけなのは楽ではあるが、いらだたしくもある。
その
は現在拠点に残り、他の地域の調査の案を立てたり、
残務処理なんかをしている。
兵は殆ど残していない。
本人も「シュウ様が篭城したときと同じくらいで」と言っていたので、
その程度の兵だけを残してきた。
敵からの奇襲は考えていないらしい。
さて、シュウはどれだけ時間をかけるのだろうかと見ていると、
ばたばたと慌しい足音が聞こえてきた。
「サウザー様!
敵主力部隊がこちらの陣を大きく迂回、
こちらの本拠地に向けて進軍しております!」
「何だと!?」
サウザーは叫んで立ち上がった。
が、そこではたと気づく。
「誰がそんなところへ斥候へやった!?」
その剣幕に報告にきた部下は怯えたが、つっかえながらも答えた。
「しゅ、出発前に警戒するようにとお命じに……」
「誰に聞いた」
「
様から」
サウザーは舌打ちした。
今は
の無断の行動よりも、
出し抜いてやったとほくそ笑んでいるであろう敵が憎い。
「遊軍のみ反転する!
我らだけ帰還するとシュウに伝令を出せ!」
怒気を込めて命令を出しつつ、
サウザーは自軍の陣容を思い出した。
全ては
の手のひらの上、ということなのだろうか。
(くそっ!)
サウザーは苛立ちを全て込めて、座っていた椅子を叩き壊した。
はサウザー不在の間に確認しておきたいことがあった。
廊下を歩きまわっていたのは考え事のときの癖でも、
運動不足を解消するためでもない。
できるだけ正確な地図を脳内におこすためである。
地図を把握しておけば有事の際に役に立つからで、
やっておいて損は無い。
できるならば城の中全てを回りたいところだが、
行動の制限のせいでワンフロアだけしか歩けない。
しかし、そのおかげで一箇所奇妙な場所を見つけた。
(この部屋に何か隠しているんだよな……)
地図の基準は、歩くときの歩数である。
意識して一歩の距離を同じくらいにしておき、
何度も繰り返し歩きつつ、
歩けない場所は見えたときに目算でも一応測る。
それを繰り返して確かめた中でたった一箇所、ズレが生じる場所がある。
それはサウザーの執務室の中にある。
どうにかして確かめたい。
そう思っていた矢先、リハクの部下の一人が接触してきた。
サウザー不在の頃合を見計らってのことだろう。
その謎の空間の話をすると、彼も疑問を持っていたようである。
は彼にドアの鍵を開けておいてもらい、
敵が近付いたという知らせが来たので兵力を全て城壁に集中させ、
人がいなくなった隙に執務室へと入り込んだ。
見られて恥ずかしい類の物があるのだろうかと多少気がひけるが、
そうまでして隠したいこととは何なのだろうかとも思う。
見てみたい。
その好奇心が勝っている。
部屋の中を歩き回り、
おかしな空間がある部分に面した本棚の前に立つ。
床を見てみると、何かを動かした跡が残っていた。
サウザーがその怪力で棚を動かしているのであればお手上げだが、
の力でも簡単に動かすことができた。
棚に入っているのは、どうやら本の空ケースのようだった。
棚を引くと、奥には部屋があった。
暗くて中がよく見えない。
は灯りに火をつけた。
サウザーが本拠地に戻ると、
城門は堅く閉ざされ、その周辺に敵が群がっていた。
同じように攻城兵器なんかを用意しているが、
まだ本格的には稼動していないようだ。
突撃の命令を出して急襲する。
敵主力といえども質はそれほどでもないらしく、
サウザーの姿を見て逃げ出すような輩もいる。
それを殲滅するだけの簡単な作業であった。
部下に殲滅を任せ、片付くのを待つ。
逃げ出そうとした敵首領を捕えたとの報告もあり、粗方目処がついた。
兵の質と、残されていると思われる兵力を考えると、
シュウが向こうの拠点を攻め落とすのも時間の問題だろう。
片付いたところで城門を開けさせる。
後処理の指示も部下に押し付けて、
に一言文句を言ってやろうと階段を上った。
こうなることが予測されていたならば、先に言え、と。
ノックもせずに彼女の部屋のドアを開けたが、
中には誰もいなかった。
緊急時のためか、このフロア自体に人が少ない。
階段の見張りくらいなものである。
その見張りは
の姿を見ていないという。
どこに行ったのか。
サウザーの勘がある場所だと告げている。
無言で部屋を出て、
追いついた部下が声をかけてくるのも無視して走る。
鍵をかけたはずの執務室のドアが簡単に開いた。
中に飛び込むと、本棚が動いた状態になっている。
(見たな……!)
サウザーの頭の中にあった先ほどのクレームなど一瞬で蒸発した。
あの部屋の中に居る誰かを殺す。
以外には考えられないが、
人質として、軍師としても使えなくなってしまうが、
どうあっても殺す。
絶対に殺す。
サウザーはドアに内側から鍵をかけ、
ゆっくりと隠し部屋へと近付いた。
←
戻
→