happiness
シュウは城壁から敵兵の気配を探っていた。
それが唯一の仕事であるが、
光を失った身としては自力では分からない。
随伴している部下に状況を聞くだけである。
苦戦と、少しばかり死を覚悟していたシュウではあったが、
が言うとおり敵が攻めてくる気配は無い。
何故なのかシュウにはよくわからない。
共に拠点に残った皆も同じ感想を抱くようだが、
言うべき答えが分からない。
サウザーは「死ぬようなことはない」と言っていた。
の差配による結果なのだろうか?
真相は何も分からないが、
十分な食料と武器も拠点に運び込まれていた。
篭城する環境は整っているし、まだまだ続けていられる。
シュウができるのは、士気を落とさぬよう気を配ることだけである。
(いくら考えたところで、分かることなどない)
そう思い、シュウは己の出来ることを真面目に考えた。
それから数日後、
サウザーは主力軍を率いて戻ってきた。
予想よりも随分早い。
戻ってきた軍は休むことなくそのまま相手の陣地に攻め寄せ、
戦意があるのかどうか疑わしい敵はそのまま潰走した。
シュウはその機に拠点から打って出て、加勢した。
戦闘があらかた終了したころ、
快勝に満足げなサウザーにシュウは礼を言った。
「早く戻ってくれたおかげで、皆の消耗も押さえられた。
ありがとう」
そんな場面にありがちな対応であったが、
サウザーは鼻で笑った。
それ以上の反応は無い。
「……ところで、向こうで集めた兵の責任者はどこに?」
一応顔を繋いでおかなければ。
そういう義務感からの問いであったが、
南斗の人間の気配しか周囲には無い。
「邪魔になるからな、処分した」
サウザーは軽い調子で言ったが、シュウは耳を疑った。
寡兵であることを心配していたのではなかっただろうか。
その疑問が顔に出ていたのか、サウザーはあざ笑うように続ける。
「情報が漏れるのが一番困るだろう。
無駄な人員はいらぬ。
拠点として使えるよう
に預けているから、
そちらの心配は必要ないぞ」
確かに、昨日の敵は今日の友という訳にはいかないことくらい分かる。
面従腹背の人間も多くいるだろう。
しかし。
「人の命を軽んじすぎてはいないか?」
それは、純粋な問いだった。
「味方の命を惜しんだまでだ」
サウザーの言葉は簡潔で、理に適っていた。
それ故シュウは反論することは無かったが、
心の中にしこりは残った。
はバイクや車などの整備以外の機能を停止させ、
拠点をただの工場に作り変えさせた。
必要な電力はかなりの規模になったが、
バッテリーなどの道具も豊富にあり、
風力発電の設備を整えてしのぐことにした。
こんなところでリュウロウところで学んだことが役に立とうとは。
そんな改変を終えて戻る頃には、
サウザーの方も戦闘を終了させて既に帰還していた。
全ての策が当たったことのお褒めの言葉をいただいたが、
シュウに残ってもらった拠点の敗北はかなり難しい。
とにかく耐え、我慢し、その間に別働部隊が敵方の食料を奪う。
その任務は諜報に使っていた数人を充てた。
そうしておけば飢えもあいまって、
敵の士気はだだ下がりである。
こちらは準備を整えておけば難しくなく勝てる案件であった。
しかし、次は違う。
次の勢力のリーダーはかなり慎重な性格のようで、
サウザーに出してもらった密偵も複数人の未帰還者を出した。
は部屋や廊下をぐるぐると歩き回りながら、
敵をどうやって引きずり出すか、
どうすればそうしたいと思う状況にできるか。
そんなことを考えていると、向かいからシュウが歩いてきた。
「
さんか。
先日の戦闘はサウザーに何か言ってくれてあったのかな。
おかげで私が出向いた拠点は大した労もなかった。
ありがとう」
目が見えない彼がどうやって
だと判断しているのか分からないが、
柔和な笑みを浮かべて会釈した。
も一応会釈を返す。
「シュウ様がおられたからこそ順調にいきました。
ありがとうございます」
「いやいや」とシュウは照れたように笑う。
サウザーと同じ拳の使い手ではあるが、印象が全く違う。
彼はリュウロウに近いが、リュウロウよりも単純だ。
再会する以前はサウザーもそう成長しているはずだと思っていたが、
随分と様子が違っている。
「しかし、サウザーのやり方には私は賛同しきれないのだ。
いらぬからと命まで奪う必要がどこにあるだろうか。
もしよければ、
さんの口からも何か言ってやって欲しい」
足手まといはできるだけ少ない方が良いですよ、
という言葉を
はなんとか飲み込んだ。
彼の信用を失っては、後々困る。
主に、リュウロウやリハクが助けを出してくれたときに。
「……私は善悪を言える立場にはありません」
そう応えると、シュウは少し眉尻を下げた。
「――…配慮が足りなかったようだ。
不満をぶつける形になってすまない。
サウザーは無理難題を強いてはいないか?」
「いいえ。
ご心配ありがとうございます」
は苦笑した。
どうにも、彼はサウザーの人間性を信用していないらしい。
「あなたを心配している人がいることを忘れないでほしい。
もう少しの辛抱だ」
シュウは低い声で、口早にそう言って微笑んだ。
ああ、良かった。
うっかり尻尾を出すような真似をしなくて、本当に良かった。
彼は
を本当に心配してくれているらしい。
そうして、読みどおり彼の手引きでリュウロウはやってきそうだと思った。
リハクは違和感を感じながら報告を聞いていた。
は確かにサウザーの拠点に捕えられている。
そして、何らかの献策をさせられている。
それが合意の上かどうかは確証が無い。
南斗の軍が今回しかけた戦闘では、いくつかおかしな動きが見られた。
内部分裂を起しそうだと感じていた勢力が直前で本当に分裂した。
何らかの力が加わったとしか思えないタイミングである。
サウザーがそんな細かいことを指示してこなかったから、
以前までの状態が続いていたのである。
彼が本気を出せば潰すことも可能だと思われたが、
おそらく効率的に複数の勢力を落とすべく
が手を出したのだろう。
(自らの意思で行動しているのか……?)
その疑念から調査の期日をのばしている。
リュウロウからは催促の言伝を貰うようになった。
しかし、詳しいことを調べようにも
に接触できる人間も、
タイミングもかなり限られているらしく、
リハクが決断を下せないままである。
部下達は協力的だ。
がもっと小さい頃から知っている者もいる。
だからこそ、早まった行動はとるなとも言っている。
もどかしいが、失敗は許されない。
損害も抑えなければならない。
なにせ、リハクはこれから最後の将のために働かねばならないからだ。
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