happiness
がサウザーの城に連行されてから数日後、
練兵の様子を見る機会が得られた。
南斗の拳士というだけあって、どの兵も動きにそつが無い。
集団としての動きの理想には及ばないが、個々の戦闘力は高そうである。
はそう判断した。
人前に出るに当たって、
サウザーからは更に行動の制限を言い渡された。
は一言も言葉を発してはいけない、とのことである。
味方にもあまり情報を開示するつもりは無いようである。
近くにシュウが立っていたが、
彼は事態を正しく理解してはいないようで、
の境遇について気遣ってくれた。
シュウも、リュウロウも、
程度の差こそあれサウザーの方針には不満を抱いているようである。
ならば近いうちにでも彼らは結託するだろう。
リュウロウが助けに来てくれると言っていたが、
それをより確かな物にしなければ。
貴重な戦力であるリュウロウを利用するために。
「――…これで終わりだな、戻るぞ」
が事前に依頼していたメニューを全てこなしたので、
サウザーはそう言ってさっさとその場を離れた。
も慌ててその後を追う。
「どうだ」
部屋へ戻る道すがら、サウザーが尋ねた。
「期待以上です。
それを踏まえての案がございますが、
すぐに説明させていただきましょうか?」
がそう答えると、サウザーはにやりと笑った。
「そうしてくれ」
そう返事が返ってきた。
どうにも彼は急いでいる様子である。
急速に勢力を拡大しているのは拳王である。
領土拡大を続ければいつかぶつかる相手ではあるが、
今はまだ目の前に立ちはだかる敵というわけでもない。
いつかは拳王とぶつかるのだと記憶しておかねばなるまい。
それまでにある程度の精力を蓄えておかなければ、
まともなぶつかり合いすら難しくなるだろう。
リハクはリュウロウからの報告を受けて、深いため息をついた。
昔一度だけ家出をしたくらいで、
は従順な娘だった。
実の娘のトウも聞き分けの良い方ではあったが、
がリハクの指示に異を唱えたことは無い。
その
がはっきりと意思表示をしていたのだ。
サウザーに仕えたい、と。
リュウロウの所へサウザー本人が訪れたのは誤算だったが、
は捕えられたのか、
それとも自らの意思でついていったのか、
はっきりとは分からない。
それでも、戻ってきてもらいたい。
リハクはそう思っていた。
家出した
を預かってくれたオウガイから諭され、
半分は弟子、半分は娘を育てるような気持ちで接してきた。
以前は確かに小さい娘に対して酷な接し方をしていたと思う。
そのおかげで他所へ出したくなくなってしまったが。
その手塩にかけて育てたかわいい娘を、
何が楽しくてサウザーにくれてやらねばならんのか!
……落ち着かねばなるまい。
も大人である。
サウザーのやり方を見て、それに賛同するとは思えない。
逃げ出す手筈を整えてやるのが上策だろう。
幸いなことに、リュウロウが城への侵入を申し出てくれている。
彼ならば
を脱出させることができるだろうし、
シュウからの協力も得られるだろう。
それがリュウロウにとって良いことなのかどうかは不明だが、
リハクの中では
を脱出させることが最重要課題である。
(今、一番サウザーを憎んでいるのはワシだろう)
リハクはそう思った。
「――…以上です。
何かご質問は?」
はすい、と地図の上の駒を動かした。
サウザーは無言でそれを眺めていた。
「これではシュウを見殺しにするのと同義ではないか?」
最初に全力で敵の出城を急襲しシュウに篭城させる。
その間にサウザー率いる本体が反対側の小勢力を制圧し、
とんぼ返りして合流した後対峙していた勢力を倒す。
「片方だけを叩いても、ほぼ100%背後を突かれるでしょう。
シュウ様が対峙する勢力は仲違いさせ、戦闘に入らぬよう細工します。
この工作はサウザー様の部下にお願いします。
反対にこちらの部隊ですが、機動力のある装備が売りですので、
こちらを制圧、装備を接収するのが一番早いかと」
「そう上手くゆくか」
「お気に召さない結果であれば、首を刎ねていただいても」
の言葉に、サウザーは笑った。
「貴様は生かしておく。
が、待遇は変わるだろうな」
「肝に銘じます」
渋ってはみたものの、
上手くいけば短期間に領土の拡大が達成できる。
本人が責任を取ると言っているのだから、
乗らない手は無い。
「シュウ様が残る拠点は陥落・敗走しなければ勝ちです。
あとはサウザー様がどれだけ早く戻れるか、ですね」
挑戦的な物言いである。
よほど自信があるらしい。
「……ふむ」
サウザーは何かケチをつけようとしたが、思いつかなかった。
地図を見下ろしながら考える。
シュウは見殺しにするには勿体無いが、
敵の内部分裂の兆候は報告にもあった。
さて、どうしたものか。
「信用していただけますか?」
の声のトーンが変わった。
サウザーが顔を上げると、彼女はサウザーを見ていた。
最近は直視されることが少なかったので多少驚いた。
そういえば、リュウロウの小屋で会ったときもこちらを凝視していた。
「……・お手並み拝見、というところか。
それ以上の意味は無い」
「そうですか」と
は視線の割にそっけない返事だった。
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