prejudice


ユダは美しさを好む。

一番分かりやすいところで言えば、
見た目が整っていることは、美しい。
女性的な曲線的な美もあれば、
男性的な鍛え上げた美もある。
どちらが優れているという訳ではなく、
どちらも美しい。

拳で殺すことは、美しい。
単純な武器、たとえば剣や槍のような物を使っても良い。
それらの技術を磨き、高め、
その発露として試合、すなわち死合いがある。
結果片方が死ぬことがあったとしても、
生き残った方の技量が優れていることの証明である。

だから、強いことは美しい。
どの流派であっても、美しい。
比較すると美しさの差は多少なりとも出てくるが。

数ある流派の中で、ユダは己の紅鶴拳が最も美しいと考えている。
そして、その伝承者であるユダ自身が最も美しい。
強く、美しくあること。
それがユダの存在意義である。

だから、部下にもそれを求める。
強いこと。
美しいこと。

美しい見た目というものを持ち合わせていなくても、
それ以上の能力があれば、それで良い。
その能力、技術が一つの芸術である。

それでも、やはり武器に頼るのは美しいと思えない。
特に、己の力量以上の威力を発揮する銃などは。

便利であるとは思う。
しかし、それはやはり、それ以上ではない。
強さとは異なる。
技術はあるが、それは芸術の域には達しない。

シュンッ

サイレンサーを通り、ごく僅かな音と共に発射された弾丸が、
ユダの裸眼では見えない程度に遠い的を打ち抜く。
これで、用意させた的は終わりだ。
ユダは双眼鏡から目を離した。

「……使えるな」

それ以上の言葉は出ない。

「使っていただけますか?」

ゴーグルを外し、
床に寝そべるようにして構えていた女が立ち上がる。
名前をという。
どんな銃でも使えるという。
狙撃用のライフルを用意していたので、試させた。

「予備の銃は持っているのか?」

「このライフル以外には、
 サブマシンガンが一丁とハンドガンが二丁。
 弾もある程度は。
 ライフルが一番使い勝手が良いかと思い、
 デモンストレーションをさせていただきました」

見た目は普通である。
背が高いわけでも、低いわけでもない。
髪は長いようだが、今は帽子の中にしまわれている。
華奢であるというわけでもない。

用意させていたとおり、
の後ろからダガールが忍び寄る。
首を手刀で一撃すれば、普通の女は気絶する。

は無造作に脚のホルダーからナイフを抜き、
振り向きざまに横なぎに払う。
ダガールが飛び退り、避ける。

「……気づいたか」

「狙撃の準備をしているときに、
 己の身を守れる程度には」

慣れた様子でナイフを戻す。
ふと、ユダはその手に見入った。

銃を扱うからなのか、
それとも女だてらに戦いに出る苦労からなのか、
女にしては節の目立つ手をしている。
無駄な肉の無い、骨ばった手である。

美しい手と評価される手は、
華奢な、細く長い指であろう。
日焼けもなく、肌荒れもない手。

思い立って、的を集めてくるように命じた。
少し待てと言うと、
は無言で頷いた。

部下が集めてきた人型の的は全部で十個。
そのうち、心臓を打ち抜いているのが五、
頭を打ち抜いているのが三、
残り二つはのどを打ち抜いているので頭がもげている。

「ふむ……」

ユダは己の認識を改めることに決めた。
これほどの技量であれば、
その技を美しいと認めても良い。
間違いなく、は強い。
銃を持ち、距離を置いてという条件付ではあるが。

「良かろう、雇ってやろうではないか」

「ありがとうございます」

銃撃の訓練を施す団体特有の敬礼をしかけて、
は苦笑して手を下げた。

「なぜやめる?」

「そういう挨拶をする集団でしたか?」

「それもそうだな」とユダが言うと、
は深々と頭を垂れた。

今は、はユダの部下である。
雇われた部下である。
優れた技術を持つ、美しい傭兵である。

(得がたい人材を得たものだ)

と、ユダは一人にんまりと笑った。
めずらしく、女を容貌以外で評価した人材であった。