暑中
「暑い!!」
そう叫んで、
はごろりと床に転がった。
“妙齢の”という形容詞をつけても可笑しくない年齢だというのに、
大人しくなる気配は一向に無い。
幸村や佐助なんかと一緒に扱っているのがいけないのだろうか?
その仮定を何度となく考察してみるが、
それは無理だったろうという結論に毎回落ち着く。
彼女はそういう忠告を必要以上にはねつけるきらいがあるからだ。
ぱたぱたと団扇で扇ぎながら、
は日陰で倒れている。
放っておくとそのまま眠ってしまいそうだ。
「
よ」
「何ですか、お館様」
注意されると思ったのか、寝転がったまま
は身構えた。
寝転がっているせいで、少し間抜けだ。
「じきにそこは日向になるぞ」
そう言ってやると、
はむくりと起き上がって別の日陰に寝転がった。
また先ほどと同じようにぱたぱたと団扇で扇いでいる。
「…そういう意味では無いわ。
そんな所で昼寝しておると風邪を引くぞ」
は寝転がったまま、信玄を恨めしそうに睨んだ。
「こんなに暑いんですから風邪なんか引きませんって」
「そもそも、何故わしの部屋じゃ」
「いろんな部屋で試してみたんですけど、ここが一番涼しいんです」
だからです、と悪びれもせず
は言った。
信玄は溜息をついた。
「だって、幸村が悪いんですよ?
見てるだけで暑いんですもん」
そう言って
はむぅ、と膨れた。
その顔が面白かったので信玄は少しふきだした。
「これこれ、そう言うてやるな」
「ここなら誰にも邪魔されないんです。
お願いします、暫く昼寝させてください」
はころりと寝返りをうってうつ伏せになり、両手を合わせた。
信玄はまた、溜息をついた。
「良い良い、好きにせい。
ただし、わしも寝る」
そう言うと、
は驚いたようだった。
信玄は立ち上がって、彼女の隣に寝転がった。
「偶にはわしもサボらんとやってられん」
「お館様もサボるんですか?」
が疑わしげに信玄を見る。
「どういう意味じゃ」
「いえ、深い意味は無いです。意外だな、と思っただけです」
「ワシとてずっと真面目にしておるわけにもいかぬわ」
「そういうものですか?」
「そういうものじゃ」
「そうなんですか」
そう答えると、
はくたりと床に頭をつけた。
「最近暑くてよく眠れ無いんですよ。
おやすみなさいー……」
はうつ伏せのまま、すぐに規則的な寝息を立て始めた。
確かに、この部屋は広めに作ってある上に居る人間も少ないし、
それなりに風通しが良い。
今の時期には昼寝にもってこいの部屋なのかもしれない。
なんだかなぁ、と思いながら、信玄は
の手から団扇を取った。
扇いでやると、
は気持ち良さそうにもぞもぞと寝返りを打った。
平和だな、としみじみと思った。
頬に張り付いた髪を耳にかけてやって、
信玄は小さく笑った。
戻