心配性
佐助が部屋に入ると、案の定
は床に倒れていた。
倒れているというよりは、
倒れるように眠っているという方が正しい。
部屋の中は酒精で空気が悪い。
佐助が襖を開けたせいで、
部屋の中の空気が佐助の顔を撫でた。
「
ちゃんさあ、そんな眠り方すると身体壊すよ?」
「……佐助さんですか」
「俺じゃなくて、真田の旦那の方が良かった?」
「別に…関係ありません」
む、としたようで、
は寝たまんまで佐助を睨んだ。
まだ睨むだけの精神力が残っていたのだな、と佐助はほっとした。
「何か用ですか?」
「俺様も鬼じゃないし、
ちゃんの様子を見に来たって訳」
佐助が目の前にしゃがみこむと、
は嫌そうに身体を丸めた。
「帰ってください」
「そんなつれない事言わないで、さ」
髪を撫でようと手を伸ばすと、思い切り弾かれた。
「……別に、俺だって何も知らない訳じゃないし。
ちゃんさ、怖いんでしょ?」
の視線がより険しくなった。
「いっつも、殺す直前に躊躇ってるし。
戦の後はいつもこうだし」
の眼を覗き込む。
は視線を彷徨わせ、結局目を伏せた。
「別にそれが悪いって言うわけじゃないんだ。
俺だって鬼じゃないしね」
再び手を伸ばしてみると、
触れるか触れないかのぎりぎりの距離まで
は抵抗しなかった。
「でもさ、ちょっといじめたくなるんだよね」
笑うと、
が怪訝そうな目で佐助を見上げた。
「こんな弱ってる
ちゃん見られるなんて、あんまり無いし……!」
が脚で佐助の側頭部を狙ったので、佐助は後ずさった。
鼻先を
の爪先が掠める。
その勢いを利用して、
はその場に起き上がった。
手に武器を持っていないのが致命的であるが。
「…帰ってください」
「俺さ、
ちゃんが大好きだから」
「ふざけないで下さい!」
は手元にあった銚子を投げたが、そこには既に佐助の姿は無く、
宙を飛んだ銚子は床に落ちて割れた。
「大好きだから、いじめたくなるんだ」
背後に佐助の気配がした。
が振り返る前に、佐助は背後から
を抱きしめた。
「でもさ、自分で自分をいじめてる所は見たくない」
耳元で佐助の声がする。
の背中が佐助の胸にぴたりと寄せられているので、とても温かい。
「離して下さい」
の恨みがましい声がした。
「そんなに言われて、離すと思う?」
「……佐助さんがまともな神経をお持ちなら」
「俺様、“まとも”な人間じゃ無いしぃ」
佐助は
の頭に頬を寄せた。
は逃げ出そうとするが、関節の位置を把握しているのでそれは不可
能だ。
「だから、一人が嫌なら呼んでよ。傍に居るからさ」
「勝手な事言わないでください」
「俺様超勝手だしぃ」
腕の中で
がぐったりした。諦めたのだろう。
ほっとして、佐助は
の頭を撫でた。
「
ちゃんは優しすぎるだけ。
俺様の心配事ふやさないでよ?
真田の旦那だけでも大変なんだからさ」
「勝手に心配してるだけでしょう」
「つれなーい、俺様かわいそう過ぎじゃない?」
くすり、と
が小さく笑った。
それで、やっと佐助は心から安堵した。
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