ハナムケ


元親を見失ったのはごく一瞬で、
そのすぐ後に誰か知らない奴に腹を刺された。
そいつの首は落としてやった。
それで身体は満足してしまったのか、
は笑いながらその場に仰向けに倒れてしまった。

倒れていると、空が本当に遠く感じる。
脇腹が焼け付くように熱い。
押さえてみるが、どうにも出血が止まりそうに無い。

助かりたい。
死にたくない。

そういう感情は己の血と同様に後から後から溢れるが、
だからといって何か対応できるわけではない。
ただ、呆然と腹を押さえてみる。

あまりに痛みが激しいと感覚が麻痺するのだろうか、
腹の傷は熱を持ってはいるが、それほど痛いと思わない。
否、思えないのだろうか?
もうどうでも良いことだが。

「よう、。何やってんだよ」

元親が立っている。
血を流しすぎて幻覚でも見ているんだろうか。

「寝てるんです」

幻覚に何を言っても無駄なのだが、言わずには居られなかった。
幻覚で元親は元親で、
何か困ってるみたいな顔をしているのを見ると、
嘘をつかずにはいられなかった。

四国統一だってまだ見てないのに。
元親の夢の一つもまだ実現していないのに。

「……勝ちました、よね?」

言うと、元親は口の端を持ち上げた。
それでも、笑顔とは程遠い顔だった。

「当然だぜ、俺を誰だと思ってんだよ」

良かった。
それを聞いてはほっとした。

「起きろよ、引き揚げるぜ」

「無理です、猛烈に眠いんです」

は目を瞑った。
ちょっと、日の光が眩しすぎる。

「なぁ、起きろよ」

元親がすぐ傍に座ったらしい。
そんな音がした。
薄っすらと目を開くと、眉間に皺を寄せてこちらを睨んでいた。

「何泣きそうな顔をしてるんですか」

そんな顔をしないで。
見てるこっちが、痛い。

「……起きてくれよ」

元親が抱き起こしてくれた。
幸せ。

「無理ですよ、眠いんですって」

目を瞑った。
眠い。
つらい。





イタイ。





……」

元親は腕の中で目を閉じたに呼びかけた。
返事は無い。
血の気が失せた唇は蒼白で、身体は妙に軽い。

抱き上げた手がべっとりと血で濡れた。
周りには鮮やかな赤の水溜りが広がっている。

何故。
何故死んだ?
途中まではずっと、一緒に居たじゃねぇか。

元親はをぎゅっと抱きしめた。
手が、だらりと地面に落ちた。

ずっと一緒に居ると思っていたのに。

そっと口付けた。
血の味がした。

「海に流してやるからな。
 海に出るときは、いつも一緒だ」

ずっと、一緒に居てくれ。